僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
22







 戸口先輩に昼からでいいからと言われて昼過ぎに寮の5階にやってきた。


 初めてエレベーターを使い、上がってきたは良いけど、5階には多目的ホールしかないんじゃないのか?と入寮当初に読んだ説明書を思い出す。
 エレベーターホールで待っていれば戸口先輩が迎えに来てくれると言っていた。

 静かに動くエレベーターの表示を見ていると、それはどの階にも止まることなく5階にたどり着く。


 すっと開いた扉の向こうには、すでに戸口先輩の姿があって、エレベーターホールに設置されてあるベンチに腰掛けていた。


「す、すいません!・・・待たせてしまって。」

「いや大丈夫だよ。あの部屋から少しでも出れるならと早めに待っていたんだから、気にしないで。」

 そういって笑った戸口先輩はこっちへ、と僕を促すと多目的ホールに向かって歩き出した。何個もあるホールの入り口を通り過ぎ、突き当たりにある非常階段をもう1階上がったところに一つの扉があった。

「6階・・・になるんですか?」

「ん?あぁ正確には5.5階って所かな。ホールの舞台裏になるところだよ。さ、どうぞ入って。」

 そう言って開けられた扉の向こうには・・・・

「うわっ」

 会議室のようだが、そこは生徒会室の造りにとても似ている空間だった。大きな机に広げられたたくさんのプリントなのか書類なのか、重ねられたそれらは今にも崩れ落ちそうな危ういバランスを保っていて、その間にはパソコンがあったり、はたまた飲みかけのペットボトルなんかも転がっていた。

「来たか?」

 そう聞こえたのは会長の声。
 どこから?と思うのとひょっこり黒髪が机の下から覗いたのは同時だった。

「何やってんですか、会長。」

「いや、プリントが落ちて・・・戸口もソレ拾ってくれ」

 と指差したのは入り口にまで飛んだらしいプリントが数枚。

「ゴメンネ、田嶋。すっごい散らかってるけど気にしないで。どうぞ入って。あ、机にはくれぐれも気をつけて。」

 足元のプリントを拾いながら入っていく戸口先輩の後ろを続くように部屋に入り、扉を閉めて改めて向き直ると、戸口先輩に小さく手招きされた。

「このテーブルは触らないで、見られて困る物ばかりだから。そして早速だけど・・・こっちの小さい机の上の物をファイルして欲しいんだ。ちゃんと分かれているからページを合わせてファイルしてくれればいいよ。」



 与えられた仕事は本当に簡単な作業だった。

 こんなことさえできないくらい忙しいのかと思うと気の毒にさえ思う、けどそれが生徒会なんだということだろう。

 パイプ椅子に腰掛けてひたすらファイル整理。一つが埋まればまたもう一つ。内容はよくわからなかったけど、数字の羅列がひたすら載ってる物から過去の生徒会の活動が書かれている物などがあった。

 会長も先輩も黙々と作業をして、聞こえるのはパソコンのキーを打つ音と紙の擦れる音くらいで、時折携帯のマナー音が響く程度だった。








 作業し始めてからどのくらい経っただろうか、凝った背中を伸ばして、目の前に広がる大きな窓を眺めたらずいぶんと日が傾いているようだった。

「疲れただろ、紅茶でも入れようか。それともコーヒー?」

「・・・はい。・・・あっ!先輩、僕が入れますっ。」

「いや、手伝ってもらってるから気にしないで。」

「でもっ・・・終わりそうにないんじゃないですか?今日中に。僕・・・雑用しかできませんから・・・。」

 ちらっと机に広がる書類に目を移したら、ずいぶんと片付いてはいたけどあと数時間で終われるような気配もなかった。
 そんな視線の先に気付いた戸口先輩が苦笑して僕の肩に手を置く。

「そう?・・・じゃ、お願いしようかな?あっちの部屋にキッチンがあるから。僕と会長はコーヒーお願いしたいんだ。田嶋は好きなの作っていいから」

「はい。」

 きりのいい所でファイルを置いて、戸口先輩が指した部屋に向かった。





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