僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
20








 教室や寮が、長期連休の話しで持ちきりだった。長期といっても一週間ほどの・・・ゴールデンウイーク。

 今年はどこへ行くのか、どのくらいの期間行くのか・・・なんて言葉が飛び交っているけど、その全てが僕には関係ない事で、GW自体も僕には関係ない。入学してからの災難?続きを思えば、やっと一息つけるのかと思える程度で。



「ずいぶん薄くなったな。」

 佐古によって体に付けられた青あざは徐々にに消えていき、まだ少し残っているものも、2・3日もしないうちに消えるような物だった。

 行為の気だるさから、シーツに包まりウトウトと眠りに入ってしまいそうな意識の中で、森岡の触れる指が僕の背中をさすっていく。


「ん・・・」

 もう眠いんだ、という意味を含めて身をよじる。

「GW、どこか行くのか?」



「・・・・ううん、どこにも行かない。―・・・寮に、居るよ。」

 空気が一瞬止まったように感じたのは、僕の肌を滑る森岡の指が止まったせいだろうか。

「寮に?家には帰らないのか?」

「うん。ここに居る・・・森岡は、帰るの?」

「・・・あぁ、まぁ帰ってダチに会う程度だけどな。」

「そっか」

 ほとんどの生徒が自宅へ帰ったりするのだろう。そうすれば寮に残る人間なんて数えるほどしか居ないんだと思う。幸い購買は開いてるし、食堂も事前に申し出れば食事ができるらしい。

「椿、帰って来いとか言われてねぇの?」

「うん。上の兄弟も寮生活ばっかだったし親も慣れてるのか言ってこないよ。・・・仕事、忙しいだろうし」


 この学校に来てから一度だって連絡は来ていないし、帰ったところで家には誰も居ないだろう。わざわざ会うような友達だって・・・居ない。

 まどろみの中にあった思考がそんな会話によって冴えはじめてしまって、眠れる気配もないので体を起こした。


「シャワー・・・浴びてくる、ね」

 そう言って森岡にシーツをかけて部屋を出た。




 コックを捻り出てきたお湯を頭から被る。森岡との情事の痕を消すように丁寧に洗い流していく。

 こんなことにも慣れてしまった自分はどこかおかしいのだろうか。男同士で、こんなこと。
 今までは考えもしなかったし、ゲイだとかホモだとか何の関心も湧かなかった。なのに自分は今そのど真ん中に居るんだ。

 この閉鎖された空間だけの、一時的な感染病のようなもの。

 周りを見て思ったのはそんな事だった。

 きっと今の森岡との関係だって、卒業する頃には清算される。会長に対する黄色い声だって、卒業してしまえば皆忘れてしまうんだろう。なかったことになるのかもしれない。

 普通に男の人しか愛せない人からすれば、これこそ不毛な体の関係でしかないと思う。


 一応の坊ちゃん校とあって森岡だって一歩外へ出れば心配して、気にかける親が居て、きっと親の仕事を継いだり、いい大学に入っていい所に就職できて・・・将来がある。

 いや、森岡だけじゃない皆そうなんだ。

 会長だって、佐古だって。

 僕の未来がどうなるかなんて想像もつかないけど、今はこの空間で過ごすしかない。いつか過去の存在、忘れられる存在だとしても・・・

 そうならない為にここに来たのに。

 僕だけの何かが見つかる事を望んで自分で立ち上がったつもりだったのに。

 実際は何も上手く行っていない事に笑いが漏れた。


 シャワーから上がると森岡は部屋に戻ったのかもう僕のベッドには居なかった。倒れるようにベッドにうつぶせになるとほのかに森岡の香りがして、シーツを握り締めた。

 森岡とは、近づけない?

 体の関係があっても、友達は?と聞かれたなら今の僕には一番に森岡の顔が浮かぶんだ。森岡はそんな風に思ってもいないだろうけど。優しくされて、その気になっているだけかもしれない。傷の手当てや回復を気にしてくれる事に対して、傷が消えることなく、痛み続ければ良いのにとさえ思ってしまう僕は


 やっぱりどこかおかしい。





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