僕をよろしく | ナノ
僕をよろしく
18
寄り添い立つ二人を見ていると、同室同士ってこんな雰囲気なのかとか、僕と森岡ももう少し仲良くなれないものかと思う。
一緒にキッチンに立つことなんて一度もしたことなければ、リビングで過ごした事もない、森岡は僕の部屋に来るけど僕が森岡の部屋に行ったことはないことに気付く。
・・・でも、用事がないのに上がり込む理由もない
僕と森岡の間で、友達や同室としての会話なんてほとんどなくて、そう考えてしまえばやっぱり体だけなんだ、と落胆してしまいそうになる・・・。
「ほい、ココア」
「ありがと・・・」
瀬川からココアを受け取り、カップの温かさが指先から沁みてくる。ココアなんてあまり飲んだことなくて。一口含むと、温もりと甘さが心地よかった。
温もりも、甘さも・・・・
「どうした、気分悪い?」
「ううん、違うよ。ココアが美味しくって・・・」
一度口に含んだら止まらなかった。
そんな僕に瀬川は微笑んでくれる。初めて会ったときとは冷たそうで怖そうで・・・そんなイメージだったのに、今では真逆だ。手帳の一件以来、瀬川は快く僕に接してくれている・・・。
「皓!」
「なんだよ壱智」
「・・・これじゃないほうのクッキーだよ、あの赤のヤツ!」
「ちゃんと言えよな〜。いいじゃねーかまた購買行ったときに買うから。」
「覚えておいてよっ」
「わがまま言うなよ、田嶋を見習えよ。このおとなしさ。」
「・・・、皓っひどい!」
膨れっ面してココアとクッキーを自棄になって口に入れていく相川をあきれたように瀬川が眉を寄せた。
「い、いいね。仲良しで同室って・・・」
「ん?あぁこれは壱智が俺の同室のヤツと入れ替わってここに居るの。」
「ええっ、そんな事できるの?」
「ちゃんと手続きはしなくちゃ駄目だけどな。それに替わってくれる相手ももちろん承諾しなくちゃいけないし。・・・まぁ学校が甘いから、その辺は融通利くよ。部屋も余ってるし。」
「すごいね」
って言うのは、そこまでした相川に。
「皓!」
「あん?なんだよさっきからーまた何か注文か?」
「・・・・っ」
「・・・あの、僕もう戻るよ。ごめんねお邪魔して。」
前にも感じた。
僕と瀬川が話しをしている時の相川の視線。
多分・・・いや、きっと・・・相川は瀬川のことを・・・・好きなんだ。
僕に送ってくる視線は嫉妬。
ありもしない事に向けられるその視線を気付かない振りしていつまでも受けていられるほど僕だって・・・強くない。
「ゆっくりして行けよ」
「ううん、洗濯途中だったし。ココア、ありがとう。相川もごめんね急に寄って。」
そう言って、テーブルにコップを置いて立ち上がる。
このまま僕が居たら相川の機嫌はどんどん悪くなるだろう。そしてそれをなだめる瀬川との空気が悪くなっていくようで・・・この先を色々考えてしまって居たたまれない。
部屋を出る時にもう一度お礼を言って、扉を閉めた。
また、静かで冷たい廊下。
その廊下を突き当たりに向かって歩く。途中、佐古の部屋の前を通って、その扉の前に確かにあった二つの温もりを思い出して・・・。
ショック?
僕にもよく判らない。
でもあの時の、ベッドでの温もりを思い出して、本当に森岡からすればああいった甘やかすような行為と言うのが日常茶飯事なんだと思ったんだ。そして佐古と交わしたキス、微笑み・・・佐古は甘やかされているのか・・・。
僕が受けたのはたった一度きりだという事・・・。
たとえ一瞬でもいいから・・・・
もう一度だけ・・・
なんて。
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