僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
17








「大丈夫か」

「・・・・」


 二の腕を掴まれ、そんな言葉に驚いて顔を上げるとそこに瀬川が立っていた。瀬川の手には購買で買い物したらしい買い物袋が下げられていて、きっと瀬川も購買帰りにこの階段をつかったのだろう。


「瀬川・・・」


「貧血かなんかか?」

「え?」

「倒れそう・・・に見えたんだけど。」

「そう?・・・大丈夫、だよ」

 感覚がなかったんだ、なんて言って誰が理解できるだろうか。


「泣いてるの・・・か?」

「ええっ!?」

 思いもよらない言葉に瀬川の顔を見つめる。何を見てそんな風に言ったのだろうか。

「あ・・・」

 もしかして瀬川も森岡と佐古を見て・・・いや、その二人を見ている僕の姿がショックを受けているとでも思ったのだろうか?

「んー、なんていうか声掛けにくかったって言うか・・・田嶋は・・・森岡のこと」

「ち、ちがうよっ!」


 慌てて否定する僕をものめずらしそうに瀬川が見返してくる。そのことがまた恥ずかしくて、誤解を解きたくて必死に弁解を述べた。

「た、たまたま購買からの帰りで、邪魔しちゃいけないって、か、隠れて・・・や、変な意味でじゃないよ、覗き見するつもりなんてなかったし・・・で、なんか、こう・・・感覚が、いや貧血、そう、貧血っぽくて・・・―――っ!」

 気付けば、瀬川が笑っていた。


「必死っ・・・田嶋もそんな一面あるんだな。おとなしいだけのヤツかと思ってた。」

「そ、そんな・・・」

「で?その貧血は大丈夫なのか?」

「あー・・・うん。なんともない。」



 未だ掴まれたままの二の腕を引っ張られ、顔を上げる事で瀬川に問いかける。


「俺の部屋、目の前のソレなんだけど・・・来るか?ココア出してやるよ。貧血に良いし。」

「いいよ、悪いよ・・・」

「いいじゃん、壱智も居るから気にすんなって。」


 ぐいぐい腕を引かれて断りきれない・・・と言うよりかは部屋に帰ったであろう森岡と顔をあわせるのもどうかと思ってそのまま瀬川に甘える事にした。

 少し休ませてもらえば感覚もすぐに戻ってくるだろうから・・・。



 目の前の扉を開けると、中から温かい空気が流れてくる。僕と森岡の部屋とは明らかに雰囲気も違った。造りは一緒なのに何が・・・と思ったら、目の前のリビングに唖然となった。

「皓!遅いよークッキー・・・あれ?田嶋、だっけ」

「壱智、ソファーの端でも空けてやってよ」

 ソファーに寝転がって漫画を読んでいる相川がひょっこり顔を出した。ソファーの周りにはペットボトルや雑誌、漫画の山。

 瀬川に言われてしぶしぶスペースを空けるために片付けてくれる相川。

 瀬川と相川の部屋のリビングは、リビングというよりも私物が転がり放題の単なる部屋だった。寮と言うよりは家。
 僕と森岡はあまり、というかほとんどリビングでは過ごさないから物がない。ローテーブルとソファーくらいだ。


「座って、田嶋。壱智もココアでいい?」

「ココア?」

「田嶋が貧血っぽくて連れてきたんだ。」

「そう・・・、皓クッキーも食べよう!」

 キッチンでそんなやり取りをする二人を横目に僕はソファーに座らせてもらった。





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