僕をよろしく | ナノ
僕をよろしく
16
side:椿
動く気になった体で浴室に向かう。
シャツは脱いでそのまま洗濯機に突っ込み、適当に洗剤を入れてまわした。その間にシャワーを浴びて・・・夕食へと食堂に向かう気にもなれず、今日も購買へ向かうことにしようと決めた。
改めて見た自分の腹部にはうっすら赤く腫れた痕、無数の擦れた傷が見えて、思わず他人事のように「痛そう」と口から漏れた。
そっと手をあてがってみてもほんのり温かく、風呂を上がってから冷やした方が良いのかも知れない。
シャワーを終えるとスウェットを着込み、部屋を出て購買に向かった。夕食の時間も終わりかけで静かな廊下には生徒の姿なんてほとんどなかった。
1階の購買まで階段を使って降りる。
僕の居る一年生の部屋は2階だからエレベーターなんて使わない。中には使っている人もいるみたいだけど。
主に使っているのは3年生か5階にある多目的ホールでの行事があるときくらいだろうと思う。
購買には夕食も終わった生徒が、雑誌やお菓子を買いに来ていた。無駄に、といえるほど広い購買を僕はいつも食べ物を買う程度にしか使わない。
手帳から身分証明を兼ねたカードを差し出しレジを済ませると、また部屋に戻る。もうシャツの洗濯は終わっているだろうかと、そんな事を考えながら。
階段を一段ずつ上がりながら、時折痛みを訴える体に顔をしかめた。
腹だけじゃない、腰や足だって蹴られていた。何も思わず受け止めて、痛みも考えないようにしているから、どこがどう痛いかなんてあまり判らない。
気付いてしまえば酷く痛みそうで・・・嫌だ。
階段を登りきったところで、話し声が聞こえて、その声に思わず身を隠してしまった。
「ね、大晴・・・なんでそんなに田嶋の事気にするの?」
佐古の声だった。
佐古が森岡を呼び止める声だった。
行きは自分の部屋に近い階段から降りて購買に向かったのに、帰りは購買から一番近い別の階段から上がってきた。その階段が佐古の部屋に近いらしい。
失敗したな・・・と戻ろうかと思ったものの自分の事を言われていると思えば引き返す気になれなかった。
「・・・・さあな。同室のよしみ、か・・・」
「ふーん、大晴にしては珍しいよね?」
「拓深の言うように変なヤツだからかな。」
変なヤツ・・・・
森岡にとって僕は所詮その程度だ。
なんの魅力もない。佐古の言うように暴力を与えたって面白くもない。たまたま同室だっただけ。
森岡の頭が下がり、佐古と重なる。
その行為がキスだって事は見るからにわかって、森岡のシャツを握った佐古の指先が離れた瞬間に微笑んだ森岡の横顔を見て・・・・
「・・・あれ?」
壁に隠れるようにもたれて、思わず自分の手を見た。
握ったり、開いたりしてみて確かめる。
「なんで・・・」
僕の目に映るものが映像となっていた。
何で今?
夢の中に居るようなフワフワした足元の感覚に眉をひそめた。
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