僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
15









「拓深・・・。・・・椿やったのお前?」


 湯船に漬かって、拓深の腰を寄せると水面が波打ってこぼれたお湯が排水溝へ流れていく。

 拓深がやったのだという証拠なんてものは無かったけど、逆に誰がやるのか、と思えば拓深しかいないだろうと言えた。それくらい拓深は会長のことを長く思っていたから。
 叶う叶わないの恋なんかじゃない。憧れから来る一種の執着だと思う。


「・・・・・・僕だと思ってるから聞いてるんじゃない?」

「まぁな。」

「顔とか殴ったワケじゃないのにやったってよくわかったね。ってか、あいつ全然面白くもなんともない!」

「なんだそれ、面白くてやんのか?」

「変だよあいつ・・・どれだけ力込めて蹴り上げても、声出さないの。表情一つ変えないで受け止めてた。・・・気持悪いよ・・・。」


 蹴られたのか、それであの埃と腹の熱・・・。
 今晩は辛いだろうな、と拓深の髪から滴る水滴を見つめながらぼんやりと考える。


 声出さない、か。

 慣れているのだろうか、そういった事に

 いじめられっ子だったか?


 いや、それでも痛いものは痛いだろう。
うまく庇って背中を蹴られたとか言うならまだしも、俺の触れた場所は腹だった。声を出さないなんて事出来るのか?


「あ」

「何、どうかした?」

「いや―――・・・なんでもない」

「何それ!?気にな・・・っん」

 振り向く拓深の追求をこれ以上受けたくない、とばかりに拓深に唇を合わせる。




 椿の体の無数の傷。

 あれはずいぶん古いものだと思う・・・いじめられっ子という進行形と言うよりは、いじめられた経験がある、という過去のもの。
 だとすれば、今の年齢よりも若い頃にうけた、いや幼い頃かもしれない。 煙草の火傷痕などを思えば・・・


 ・・・大人から、か?

 ・・・虐待?




「ん、大晴・・・っ、もっかいしよ?」

「ここでか?」

「う、んっ」


 向かい合わせる形でその気になった拓深が俺の上に乗る。風呂でやるのは好きじゃない、けど後処理が楽だから便利だ。

 拓深に触れながら、もう俺は行為に夢中だった。

 また部屋に戻った時に椿の部屋を覗いてみよう、とだけ思いながら・・・。












「じゃぁまたな。」

「ね、大晴・・・なんでそんなに田嶋の事気にするの?」


「・・・・さあな。同室のよしみ、か・・・」

「ふーん、大晴にしては珍しいよね?」

「拓深の言うように変なヤツだからかな。」


「・・・。」

「じゃな、また連絡するわ。」

「うん、またね」


 廊下まで送りに来た拓深に屈んでキスをする。

 散々体を重ねた後でも、拓深はもの欲しそうに触れてくる。こいつは人肌が好きなんだ。相手が誰であれ、常に自分を見ていて欲しいやつ・・・。


 名残惜しそうに離れた指先に笑ってその場を後にした。






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