僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
14





side:森岡



 もやもやしたモノが渦巻く。


 椿が・・・、思うように動かない。



 それなりに多くの人間と関わってきた。それが上辺であっても、体だけであっても、相手の性格というか、性質がわかるつもりだ。

 なのに椿は一切見えない。

 椿のような地味なタイプなんて自分の近くには置かないし、興味なんて湧かない。どちらかといえばお互いに割り切れるような利発な感じ・・・見た目だってそれなりに、佐古のような人間が都合がいいんだ。


 真逆の椿になぜこんなにも俺が揺さぶられる?


 見逃してはいけない気がして仕方が無い。
 椿の場合は何かを見過ごせばそのままなかったことになりそうで・・・。別にそのことが自分にとって大切なことではないはずなんだ、きっと俺じゃなくて椿にとっては大切なことだと・・・思う。

 自分でも今まで散々人をもてあそぶ事しかしてこなかったのに、こんな考えして何を思うんだ、何を考えるんだ、と思うのだけど・・・。




 携帯を開き、アドレスを呼び出すと通話ボタンを押す。

 数回のコールの後、相手が出た。


「今から良いか?」

『なに、ヤるの?』

「あぁ」

『わかった・・・まだ寮に着いてないから待ってて。僕もむしゃくしゃしてたんだ』


 椿の事でか?―――と言う言葉は飲み込んだ。


「部屋の前で待ってる」














「んっ・・・、大晴・・・好き・・・。」


「体が、か?シャワー借りるな・・・」



 笑って体を引き離す。

 熱を持っていたお互いの体もずいぶんとほとぼりが冷めて、散々俺に縋っていた拓深の腕も簡単に離れた。

 そうだ・・・椿にはこういう事がない。
 俺にしがみついていても、事が済んだとばかりに俺が離れれば何も言わずに手を離す。行為の最中であっても、俺に縋る事はごくたまにしかない。
 いつも、自分ひとりで堪えている、というのがしっくり来るんだ・・・もちろん強姦だとかしているつもりなんてないけど、どうもそんな椿の雰囲気が椿を淡白に抱かせる。

 そのことに文句も言わないのなら、ただの欲を処理するだけなら椿で良いとさえ思う。しつこくない、抱くだけ抱いたら終わるんだから。



 たった一度だけ、甘く抱いた。

 あの時は・・・・


「馬鹿げてる」

 シャワーの温度を上げて、頭から被る。


 紛れもなく―――・・・
 何度も浮かんでは打ち消した、いや考えたくない、思いたくない。けれども明らかな・・・


 会長に対する“嫉妬”だった。



 あの椿を夢中にさせたんだ。

 椿自身、会長に夢中になったという自覚があるのかは判らない・・・けれど椿からの行動があってこその朝の密会だっただろう。

 俺は何も見ていない。けど情報が拓深からだけという事でしかないが椿は早朝に部屋を空ける事がなくなった。


「大晴、入っていい?」

 浴室の扉の向こうからそんな声が聞こえて、きゅっと蛇口を捻り、扉を開けると拓深を迎え入れる。



 ―――椿は絶対こういうことをしない。







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