僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
13










「やっぱおかしいだろ」

「え?・・・何が?」



「いや・・・」


 早く寮に戻り、シャワーでも浴びて横にでもなりたい、と考えながら残りの授業を受け、やっとの思いで部屋に着いたと同じくして森岡も部屋に帰ってきた。

 そして第一声がこれ。

 そんな森岡を置いて僕はさっさと部屋に入ろうとドアノブに手を掛けた。


「汚れてる。」

「・・・?」

 まだなにかあるのか、と振り返ったら森岡の手が僕のブレザーの裾を持ち上げた。


「ほら、これ。変に汚れてる。埃と・・・・ってシャツも?」

「あ、あぁ。今日つまずいて転んで・・・。」

「ふぅん。」

「もう、いい?」

 そう言って、また扉に向き直るとそっと森岡の体温が僕の背中を包み込んだ。


「椿・・・抱いてい?」


「――――・・・今日は、無理・・・。」

「なんで」


 クルクルと思考をめぐらせる。
 なんて言い訳すればいい?なんて言ったらごまかせる事ができる?

 何より・・・・森岡は今までこんな風に聞いてきたことなんて・・・なかった・・・。


「もり・・・」

 僕がそう声を発するのと、森岡の手が僕のシャツの中に入っていくのが一緒で、思わずその手を止める方に必死になった。

「椿がこんな抵抗するなんて初めてだな」

「そんなわけじゃ・・・」

「じゃあ、何?・・・この熱持った腹は何?」

「・・・・」

 森岡のきついほどの拘束が緩まると、肌に触れていた手つきが優しいものにかわって、僕のお腹をさする。

「拓深か?」

 なんと答えたら良いのか。
 そうだと言えば何かが変わる?
 佐古から、森岡が守ってくれたりするのか・・・なんて馬鹿馬鹿しい事が一瞬よぎった。


 でもありえない。
 二人は少なくとも体を重ねる関係だし、僕を優先するなんて事はありえない事だ・・・。


「違・・・「あぁ、俺には関係ないな。悪い、詮索して。」


「森岡・・・」


 森岡の手が裾から出て行き、背中に感じた温もりも直ぐに離れていった。自分の体温が急激に冷えていく感覚・・・。


 ドアノブに掛かったままの自分の手を見つめて・・・森岡が外に出て行く音を背中で聞いた。


 何か気を悪くさせた?
 体を許さなかったから?
 だから森岡は別の誰かを抱きに・・・行ったのかもしれない。変に優しい言葉に期待して、でもそんなの森岡にすれば大した事ではないのだ。



 部屋に入ってブレザーを脱ぐと、森岡の言ったようにブレザーもシャツも汚れていて、あの時埃を掃ったはずなのに、落とせてないところが何箇所もあった。

「シャワー・・・浴びて、シャツ・・・洗って・・・」

 そう口に出して動かないと、動けなくなりそう。

 錆付いたロボットのように。
 だれにも整備されずに、ほったらかされて、自分では燃料の供給もできなくなる・・・。

 一度感じたやさしさは、そんな僕には毒でしかないな、と思う。


 ベッドに横になると、またお腹を抱えてくの字で横になる。痛みはずいぶん引いたけど、またこんな事があるだろうと思うだけで気が重くて、逃げ出してしまいたくなる。
 逃げれたら、良いのに。
 全てから逃げれたら。
 昔から・・・何度も思い描いたことだけど、一度も試された事なんてない。僕にはそんな度胸もない。


 一人で外に立たされたところで、どうすればいいのかわからない、臆病な僕・・・。





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