僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
11







「佐古・・・?」


 思わず口にしたのは佐古の名前。
 だけど佐古は表情一つ変えずに僕を見つめ、徐々に僕との距離を詰めてくる。

 教室に感じた他の人間の気配も、いつの間にか僕の傍まで来ていて、恐怖と緊張が走る。振り向くと、そこには僕の知らない生徒が一名。ネクタイのラインから同じ一年生だということが分かった。

 また・・・何かされるのだろう。

 視線を佐古に戻し、見上げていると佐古の右足が後ろに引かれ・・・


 そのまま降りてきた足は、僕の腹部を蹴り上げた。



「――――っ!」


 とっさに腕で庇ったものの、蹴られて浮いた僕の体は、もう一人の懐に飛んだ。受け止めたヤツはそのまま僕に腕を絡め、僕の体を拘束してきた。慌てて逃げようと思ったものの、蹴られて力が入らず、結局なすがままだった・・・。

 その体勢のまま視線をまた佐古に向けた。


「何?・・・何でかはわかってるんでしょ?」


 発せられた言葉は佐古の可愛い容姿からは考えられないほどの冷たい声。

 床にほぼ転がるように寝そべり捕らわれている僕を見下ろし、また佐古の足が上がる。


「気にくわないんだよ」


 次の痛みがまた来るんだと、どこか冷静に受け止めていた。

 佐古が僕の事を気に食わないのは判っている。
 判っていて会長に近づいていた・・・。
 佐古に・・・いや他の生徒に見つからないなんて保障はどこにもなかったのに・・・あんな行動を取った僕が悪いんだ。

 佐古をここまでさせてしまったのは僕。

 足が、また僕に落とされる。
 腕、足、腹。時折蹴り上げられてはまた捕まえられて・・・・。走る痛みにただ耐えるだけしか出来ない。
 


 痛くない・・・

 大丈夫・・・



 いつまでも続かない

 いつか終わりが来るから
 
 静かに、待てばいいよ




 痛くない


 大丈夫・・・











「佐古・・・やばいんじゃね?」

「なんだよ、怖気づいてんの」

「だって、こいつウンともスンとも言わねぇし・・・」

「・・・フン・・・本当に面白くないヤツだ。」




 やっと開放された腕。
 背後に居たヤツが僕から手を離したのと、佐古が背中を向けて教室を出ようと扉に向かうのが同時だった。

「1限も中途半端な時間だな・・・」

「サボるしかないよねぇ」

「だな。」

 そんな会話からとっくに始業のチャイムも鳴っていたんだと知った。


 扉が閉められるのを、その全てを映像として見て


 ホッっと息をついた。

 
 空気が上手く吸えない気がするのは腹部が痛みを伴っているせいなんだと思う。しばらくは動けなさそうだ、と空き教室の天井を見上げた。



 そっと、目を閉じて映像までも意識から切り離すことにした。





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