僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
10






 いつも起きている時間に目を覚まし、制服を着たものの時間をもてあました。リビングで朝のニュースなんかをぼんやり見ながら、登校時間になるのをただ待っていた。

 カチャリと扉の開く音に振り返る。

「は、よ・・・」

「・・・・おはよ。珍しいなこの時間居るなんて。」


 気付かずにそんなことを言う森岡になんと答えて良いかわからなかった。

 昨日は1日部屋にこもって、ひたすら眠っていた。眠気なんてなくても無理やり目を瞑り寝たふりをし続けた。

 そして、今日からは早朝に目覚めても、もう僕の行く所はないんだ。


「あー・・・そっか。会長と密会無理だもんな。」

「・・・」

 どんな表情をして良いか判らなくて、曖昧な笑顔しか返せなかったけど、森岡はそんな僕を一瞥して部屋を出て行った。僕もそれに続くように部屋を出ると、その足で学校に向かう。
 もう、中庭には行けないけどそれも仕方のないこと。初めから無かった事だと思えばいい。



 15分の道のりをいつもよりゆっくり歩いて学校に着いた。それでも朝の時間をもてあましてしまうのは判りきっていたことで、会長のように読書でもしようかなんて考えた。それなら教室で一人でいたって十分過ごせるし周りも気にもとめないだろう。


 下駄箱を空けて、手が止まる。


 そこには綺麗な上履き。
 いつものようにゴミか何か突っ込まれているものだと、当然のように思っていたのに・・・・今日は無い。
 昨日もなかったのだろうか?



 靴を履き替え、階段を登ろうとしたその時・・・


「田嶋」

 くいっと引っ張られた肩にそのまま振り返れば佐古が立っていた・・・。
 ひやりとしたものを感じたけど、平常を装って答える。

「佐古。・・・何?」

 今日はあのベンチに行ってない。今日どころか、もう行くつもりなんてないのに佐古はまだ何か言いたいことでもあるのだろうか。


「昨日・・・休んだのは逃げてたの?」

「・・・?」

 逃げる?
 僕が・・・佐古から?


「まぁいいや。・・・ちょっと時間いい?」

 そう言うと、佐古は僕の腕を取って歩き出した。





 引かれるまま連れてこられたのは別校舎の隅にある空き教室だった。

 自分の教室以外の校舎にはまだ足を踏み入れたこともなければ、こんな空き教室があるなんて事も知らない。

「入って。」

 促されるまま入るのはどうかと思う・・・と思いつつもここまで連れて来られて今更だ。佐古が僕に何か話があるというのだから、しっかり話をするべきだし、誤解されているのならその誤解を解くチャンスでもあるんだ―――。

 そう思って目の前の扉を開けた。





「―――っ!」



 扉が開いた所で、背中に強い衝撃と痛みを受けて、その勢いで空き教室の中に転がり込んだ。

 突然の事で、驚き戸惑い、転んだ状態で佐古が立っているであろう入り口を見上げたら、佐古の片足が地面に着いたところだった。

 どうやら蹴られたらしい。


 ジンジンと痛む背中に顔をしかめ、上半身を起こした。

 埃っぽい教室。

 佐古が教室に足を踏み入れ、扉を閉めるのと同時に、教室に僕と佐古だけじゃない、他の誰かの気配を感じた。





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