僕をよろしく | ナノ
僕をよろしく
09
意識が浮上して、温かさに目を見張る。
その温もりの元でもある隣に寝ているのは森岡だった。
何度確認しても、その金髪の頭に、薄く赤い唇は森岡のもの。辺りを見回し自分の部屋だと、寝ているのは自分のベッドだと認識して。
床で体を重ねていた記憶がなく、今のこの現状を思えば、あまりの快感に自分が意識を飛ばしたらしいということ。
スウェットを着て、寝ている森岡と半裸の僕。
森岡の居る自分のべッドから出たくないと思うのはなんなのだろうか。
そんな後ろ髪をひかれるような思いを感じながら、シャワーを浴びる為にベッドを抜け出そうと身体を起こすと痛みが少ないことに気付いた。
腰に負担が掛かる行為に、あんな床での行為に。疲労感とは別の、むしろスッキリしたと言えるくらいに体が軽い気がする。
鏡で、羽織っただけのシャツの間から見えた、森岡の付けた痕を見て、トクリと、胸の奥で何かが跳ねた。
僕は、これをどう受け止めればいいのだろう。
これは何のための痕なんだろう。
傷の上に重ねるように付けられた痕に、僕は何を思えばいい?優しく抱かれて、湧いた感情をなんと思えばいいの?
次はまた淡々と抱かれるだけかもしれないのに・・・
熱いシャワーを浴びながら、赤い痕の上を何度も擦り洗う。
シャワーから上がり、火照った体にスウェットを着込み、ソファで残りの睡眠をとろうかと思ったけど、やっぱりあそこは僕のベッドだ、と戻る事にした。
規則正しく寝息をたてる森岡。
僕が寝ていた場所は、抜け出したままの状態でぽっかり空いていた。そこにまた、体を滑り込ませると伝わる森岡の体温を意識してしまい、少し隙間を空けて横になった。
人の体温を感じること、人と寄り添うという事が、そんな経験や機会が今まで僕にはなかった。
そっと、森岡の頬に・・・手を這わせて、温もりを指先に感じる。
こんな風に誰かに触れたことも初めてだ。
「・・・つばき?」
「あ。ごめん、起こした」
慌てて手を布団の中に引き込む。
「んー・・・」
意識のはっきりしない森岡が、また眠りにつくのだと思った。もう、邪魔をしないようにと、息を潜めて僕も眠ることに集中する。さっぱりした体と温かいベッドの中で、疲れた体は直ぐに睡眠を求めるだろうと。
「も、り、おか・・・っ?」
ぎゅっと、自分の体を締め付ける、森岡の腕、そして温もり。
身じろいだものの、また眠りに入っていく森岡を前に、僕は動けずに身を固めるだけだった。
なんなのか、なぜなんだろうか、この瞼の奥で熱くなるものは。悲しくないのに、瞼に熱が集まって・・・涙がこぼれそうになる。
僕は、こんな感情を知らない。
やめて、離して、と悲鳴を上げたくなるような締め付けは何?胸が、跳ねているのは何故?
気が動転して、結局眠れたのはうっすらと空が明るくなってきた頃だったと思う。その間、森岡の腕はずっと僕に回ったまま、静かに寝息を立てるだけだった。
目を覚ましたのは昼前だった。
隣が空っぽで、森岡は普通に学校へ向かったのだろう。森岡が空けたそのベッドの上の空間を見つめながら、森岡の温もりは夢じゃなかったと感覚を温もりを思い出してみる。
きっと、一瞬の気まぐれで。
それでしかないのなら、僕もあまり考えてはいけないことなんだ。
温もりなど、そこには無かったと。あの抱きしめられた感覚など直ぐに薄れるからと。
まわされた腕の重さを心地良かったと思わないこと・・・・。
ベッドの上に座り込み、そんな事を考えていたら今更学校へ向かうことがめんどくさくなって、そのまままた布団にもぐりこんだ。
眠る時は、一人でいいんだ―・・・。
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