僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
08





「椿・・・」


 上がる体温


 欲しい
 その言葉を
 もっと

 呼んで、と

 本能で



「も、りおかっ・・・・っ」

 差し出した腕は、床に貼り付けられて、その手の力に何かを感じたのに・・・その何かは僕には判らなかった。

 僕の知らない、何か。


「つばき・・・もう、誰かに体・・・差し出したか?」

 急に緩やかになった律動。森岡の言葉に答えるよりも先に、肺に空気を送り込む。



「差し、出して・・・ないっ」

「つばき」

「んっ・・・森岡・・・だ、け」

「つばき・・・」

「あっ!」


 森岡は知っている。
 僕が名前を呼ばれれば喜ぶ事を。
 誰も知らない、僕を。


 そこからは朦朧とした意識の中、森岡との性交渉が今までと比べ物にならないくらいの快感で・・・。

 それだけに没頭し続けることが出来れば良いのに。

 このままずっと抱かれ続けていれば、何も考えなくて済むのに。

 何かなんていらない。
 大切なものなんて判らない。


 でも、甘やかさないでほしい・・・














「椿?」

 くたりと床に身を投げ捨て、静かに息をする椿の頬をそっとなで上げる。額に、体にしっとりと汗をかき、その肌に指を這わせ、ところどころにできたいくつもの、薄い小さな傷跡に触れる。

「椿―・・・」

 椿の中から自身を抜き、いくつもつけた赤い痕にまた唇を這わせると、きつく吸い上げる。

 佐古が椿の首を締め上げているのを目撃して、その後佐古に問い詰めて話しを聞いた。

 いつもの自分なら、くだらない事を、と思っていたのに、なぜか湧いた感情。怒りに似た、その感情は冷めることをしなかった。


 あの椿が、会長と?

 自信のないような、自己主張もあまりしない、押せば流されて・・・そんな椿が会長に近づいているなんて。
 そんな事がありえるのか。

 所詮、椿もこの学校の奴等と変わらないんだ。

 会長に憧れをもち、恋愛云々を会長で妄想して。


 椿は違うと思っていた。
 初めて抱いた時の椿に感じた違和感。
 退屈しのぎだと、近場にある、都合のいい体だと、それにしてはあまりにも出来すぎていた。俺が他にも誰かを抱くと判っても、椿の都合などお構いなしに抱いても、椿は文句も言わない、何一つ俺に求めようとしない。


 椿は、会長に何かを求めていたのか

 都合のいいだけの体に、俺は何を求めていたのか


 淡々と抱くだけだった椿に、甘い施しをして、素直に答えてくる椿がどんな風に思い考え抱かれているのか。

 でも、見えなかった。

 椿は何も見せなかった。

 唯一「椿」と名を呼べば椿がすこし近づくだけだった。





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