僕をよろしく | ナノ
僕をよろしく
06
もう、あのベンチには行けない―・・・
誰かにバレてしまったらもうこっそり会うなんて事はもう出来ない。
そう思うだけで、胸が苦しくて。
僕がどれだけあの時間に、あの場所に縋っていたかが分かって・・・。どれだけ大切だったかって、今更分かったってもう遅い。
邪魔だって・・・
会長、実は思っていたのかもしれない。
僕には分からないことがたくさんあるから。
昔から空気が読めないヤツだとか、情が薄いだとか言われても、友達を思いやれとか言われても・・・僕はどうして良いか分からない。
人と、どう接して良いか分からない。
会長が僕のことを迷惑だって、どこかで何か訴えていたのかもしれない。それに気付けなかったのは僕だ・・・佐古に言われて、やっと分かった。
会長の貴重な時間を潰していたのは確かだった―・・・。
初めて僕と親しく話しをしてくれる人が居たと思ったのにそれは気のせいだった。思えば、会長ほどの人と僕が一緒にいるなんて事あってはいけなかったのかと思う。
学校の雰囲気を思えば、会長がどれだけ尊敬されて、手の届かない人かって判りきったことなのに。
夢のようだった日々を思い返して、半日をぼんやりした思考で過ごした。考えれば考えるほど、夢のようで。
もしかしたらまた目を瞑って、眠りに付けば会長に会えるかもしれない、なんて妄想までして・・・。
昼のチャイムを聞いて購買へ向かった。
こんな日に食堂にでも顔を出して、佐古にまた会ったりなんかしたら、足がすくんで動けそうにない。
どこまでも臆病な僕を想像して、ちょっと笑えた・・・。
「うぁっ」
購買の入り口で、すれ違った人に腕を掴まれて、そのまま入り口横の壁に貼り付けられ、驚いて顔を上げた・・・
誰?
「お前が・・・田嶋?」
へらっと笑ったその人は、緩く締められているネクタイの色から2年生だった。けど、全く面識のない人に呼ばれるようなこと・・・
僕が小さく頷くと、その人はじっと僕を見て、そして手を緩めた。掴まれたところがジンジンと痛みを訴えて・・・。
「ふーん・・・、また、ね?」
・・・・また?
何も分からず、見上げる僕を置いて、その人は気が済んだのか去っていった。
心がざわついて、何か良くないことになりそうな気がするのに、僕は何をする術も持ち合わせていない。僕の知らないところで、僕に対する憎悪のようなモノが増えている気がする。
佐古だけじゃない、あの下駄箱だって・・・
でも、僕にはどうする事も・・・できない。
きゅっと口を結んで、コーヒーのパックだけを購入して、購買を出た。
廊下を歩きながらも、周りの視線が僕に向いているような被害妄想。・・・会長の手帳を拾った後のような感覚に、居心地の悪さを感じながら、教室に慌てて戻った。
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