僕をよろしく | ナノ
僕をよろしく
05
「何してんの」
「何、って・・・?」
じりじりと歩み寄る佐古。
自分の踵(かかと)が、校舎の壁に当たるのを感じた瞬間、佐古の手が僕に伸びてくるのが分かって、思わず目を瞑った。
掴まれた、胸倉。
「どういうことだよ?朝から会長と密会?」
「ちが・・・っ」
掴まれたシャツごと、喉に押し、締め上げられる。
「言ったろ?タダじゃおかないって・・・言葉じゃわかんないの?」
「く、るし・・・っ」
僕よりもほんのすこし小柄な佐古は思った以上の力があるらしく、本気で絞められるんじゃないかという恐怖。
僕に向けられる怒り。
「何、会長と会ってんの・・・。もしかして毎日会ってたりするわけ?・・・・自分が特別だとでも思って調子乗ってんじゃないよ。」
「・・・くっ」
否定・・・できなかった。
どこかで、僕とだけの時間を過ごしてくれる会長に、自分は特別だと、そう思っていたのかもしれない。
「バカじゃないの。会長の迷惑になる前に身を引けよ。会長だって、たまたまお前が居るから相手してただけだろ?・・・・邪魔だって、気付けよ。」
「――――・・・。」
痛くない
苦しくなんて、ない
意識から、痛みだけを切り離して
そして、これは何かの映像だと
すればほら
指先の感覚からなくなってきて―・・・
「拓深っ!」
「っ、・・・かはっ」
喉元を通る空気の量が増えて、佐古の手が離れたのが映像として視界に映った。
・・・・・・終わった?
「拓深、何してんだっ」
「た、大晴・・・」
「椿・・・大丈夫か?・・・何やってんだよお前ら・・・」
「―・・・っ、田嶋がムカつくんだよ。調子乗ってるから一言・・・言ってやってただけ」
「一言って・・・手ぇ出してんじゃねーの。」
まだ、感覚の戻ってこない指先で、喉に触れた。
そっと喉をさすりながら、自分がへたり込んでいるらしい、その地面をじっと見つめていた。
足音がして、去っていく佐古の靴が砂を蹴っているのを映像として見つめて・・・なかなか戻ってこない感覚に苦笑して顔を上げた。
「大丈夫か、椿・・・」
「―――・・・」
まだまだ映像だ。
「椿?」
「大丈夫。アリガト、ごめん・・・。」
「立てるか?」
森岡の手を借りて立ち上がる、まだ感覚はしっかりと戻ってはきてなかったけど、歩けない訳じゃない。
自分が歩いていたって、感覚が戻ってこないうちは見えるものは全て映像でしかない。
森岡が僕の腕を取るのも、映像・・・。
下駄箱で靴を履き替え、やっと戻ってきた感覚に、大きく息を吸った。
「何があった?」
「ううん、大した事じゃないよ・・・僕が、悪かったんだ。」
不服そうに僕を見つめる森岡に気付かないフリをして、教室に向かった。
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