僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
03






 お風呂から上がって、冷蔵庫からジュースを取り出し、リビングを素通りして自室へ足を運ぶ。
 リビングがあっても、使っているのは森岡だ。僕は学校が終わればほとんどを自室で過ごす。


「・・・椿」

 ちょうど部屋から出てきた森岡と鉢合わせた。

「あ。風呂空いたよ。」


「うん・・・。・・・、なぁ、まだ続いてるのか?あのゴミ」


 森岡に下駄箱を見られて以降、初めての森岡からの質問だった。

 少し驚いた。・・・森岡は僕がいじめられてようが、頭から関心なんて湧いていないと思っていたから。


「・・・う、ん。でもそんなたいしたものじゃないし。・・・慣れたよ。」


 何か言いたそうに、見つめてくる森岡。タオルで頭を拭きながら、その視線から逃げた。そのまま部屋に入ろうとドアノブに手を掛けたところで、僕と森岡の部屋の扉がノックされた。

 一瞬、ドアに目をやったけど、きっと森岡の客だろうと森岡に対処を任せる。


「開いてる。」


 誰が来たかなんて分かっていたかのようなそのセリフに、この後起こるであろう事を理解して、小さく気付かれないようにため息をついた。

 今日は何の曲を聴いて布団にもぐりこもうか、と。


「あれ・・・田嶋椿?大晴と同室なんだ。」


 そう言って部屋に入ってきたのは、佐古拓深だった。
 忘れもしない、僕に忠告をしに来た、あの時のキツイ視線を。正直、あれ以降佐古にだけはあまり会いたくないな、と思いながら日々過ごしていたんだ。

 きっと、こういうタイプは一度嫌悪を抱くとしつこそうだから・・・。じゃなきゃ、あれくらいで忠告なんてしてこないだろうし。


「拓深、知ってんの?椿の事」

「うん・・・なんていうか、ね。色々あって。」

 えへへ、と森岡に笑いかける佐古の笑顔は本当に屈託のない笑顔で。それを見ていた僕も惹きつけられるほどの可愛さだった。

「拓深、部屋入れよ。・・・じゃな、椿。そういうことだから。」


“そういうことだから”

 セックス宣言?・・・森岡が自室で何をするとかはもう決まってそれしかない、と思えるくらいに慣れてきたつもりだった。だけど、毎回同じ人じゃないんだろうな、と思いつつも初めて相手を連れ込む場面に遭遇すると・・・正直複雑だ。

 今日は・・・佐古?

 ううん、佐古なら誰だって抱けると思う。あんなに可愛い顔してるんだ、男だとか抵抗なんて無いだろうし・・・。



 部屋に入ると、またいつものように音楽を聴く。
 寝るには早いけど、音楽に意識を集中させて、明日のベンチの事を考える。

 会長とは明日はどんな話ができるだろうか。


 それだけが、今の僕の楽しみだった。





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