僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
02






 嫌がらせは、ほとぼりが冷めればなくなると思っていたのに、あれからも嫌がらせは続いていて・・・。

 もっぱら、下駄箱にゴミを入れられることが中心で、ゴミの中に割れたガラスやカッターの替え刃、押しピン、なんかが入り始めた頃にはそろそろ違う手で来るのかな、なんて思ったりもしていた。

 誰がしているのかなんて予想も付かない。

 恨まれるような事、した覚えも無い。







「どうかした?」

「え?あ、なんでもないです・・・」

「最近ため息が多い気がするけど」


 朝、ベンチでサンドイッチを口に運んでいると、生徒会長からそんな言葉を貰った。

 慌ててため息を洩らした口を押さえる。


「すいません、耳障りでしたか・・・。」

「いや、何かあるのなら・・・と思って・・・俺でよければ話しを聞くけど」

「そ、そんなっ!大した事じゃないです。」


 会長は読んでいた本を閉じて僕の方に詰め寄った。


「田嶋・・・の趣味は?」

「え?」

「何でも良いんだ。そうだな、俺は読書と実家で飼ってる犬―・・・かな。」

「犬、飼ってるんですか」

「うん、趣味っていうか、帰れば一緒に遊ぶし、メールでたまに送られてくる写真とか・・・楽しみだよ。」

「じゃぁ寮生活寂しいですね」

「だな。だから土日はよく帰ってるよ。家も結構近いんだ。・・・・で、田嶋は?」

「え、僕、ですか・・・」

 ジッと見つめられる。きっと会長が先に話しをしてくれたのは僕から話しを引き出そうとしてのことなんだろう・・・。そんな些細なやさしさが身に沁みる。


「音楽・・・ですかね。好きです、音楽。」

「何を聴く?」

「何でも聴きます。クラッシックも、洋楽、邦楽・・・メジャーなモノも。インディーズとかも昔はよく聴いてました。」

「すごいな。」

「何でも聴いて、胸にくるものが見つかった時は・・・嬉しいですよ。」

「ギターとか、するのか?」

 首を小さく横に振る。

「弾けません。ピアノを小さいときに習っててましたけど、それも半年くらいで辞めちゃって・・・不器用なんですよね・・・」

 ピアノの先生が「今日で最後」と言った日の事は今でも鮮明に覚えている。まだまだこれから習うという楽譜を前に、急な先生の言葉にショックを受けて、鍵盤に指を置く事さえできなかった。

 我が儘を言っていたら、まだ続けさせてもらえただろうか?
 そんな事をしたところで、結局僕は上達しなかったかもしれないから・・・あれで良かったんだと、何度も言い聞かせた。

 毎日、毎日、言い聞かせて・・・。


「田嶋?」


「あー・・・、もう時間なんで、僕行きますね。」


 会長に会釈をして、下駄箱へ向かう。話しを切りたかった訳じゃないけど、あまりうじうじしている僕を見て欲しくなかった。




「椿。」

「・・・おはよ、森岡。」

 下駄箱で会ったのは森岡。
 朝から眠そうで仕方ないのは、昨日誰かを連れ込んでたからだ。
 深夜まで聞こえていたであろう声、途中でヘッドホンを当てて寝てしまった僕は朝起きて耳がヘッドホンとベッドに押しつけられて痛かったんだ。


「あ?何それ・・・」

 下駄箱を開けると、上履きに詰め込まれたゴミを横から覗いた森岡が気付いて声を上げた。

「さぁ・・・嫌がらせかな?でもそんなにダメージないから気にしてないけど・・・」

 いつものようにゴミを捨て、朝食のゴミも捨てると教室へ向かう階段を上がった。

 そんな僕をしばらく森岡が見ているようだったけど、何も触れては来なかった。





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