僕をよろしく | ナノ
僕をよろしく
22
「昨日はありがとうございました」
「あぁ、ずいぶん顔色良いみたいだけど、寝れた?」
「・・・ハイ。」
会長が、本を開いたことを横目で確認して、僕もまたおにぎりを口に運んだ。
会話がなくても
手の届かない存在だと知っていても
少しのきっかけで「今」を共有できる事が嬉しくて。
食べ終わってもしばらくベンチで過ごしていた。何をするわけでもない。ただ大きな木を仰いでみたり、足元に揺れる雑草に視線を送ってみたりして。
時計を確認して、そろそろ生徒が増え始めるだろうという頃に、僕はそっとその場を離れた。
また明日・・・来ても良いですか?と心で会長に尋ねてみながら。
一日の始まりがそんなのだったから、僕はその日浮かれて過ごしていた。教室では森岡に声を掛けておにぎりのお礼を伝え、お金も渡そうとしたら断固として受け取ってくれなかった。
そして、こっそりと耳打ちされたのは「話し・・・いいのか?」というセリフ。森岡と仲良くする事が周りにはイコールで身体の関係に繋がるからだろう。
それでも僕は
森岡の優しさを知った。そして森岡と出来れば普通に友達になりたいと思うから。身体の関係が先ですでに遅いかもしれないけど・・・。森岡が僕のことをそんな目でしか見れないかもしれないけど、彼の一面を知った僕はそれでも良いと思うんだ。
それから僕は早起きするようになって
そして早朝にあのベンチに座るようになった
誰も知らない、僕と会長のひと時の時間。
毎日会長と会えるわけではなかったが、ベンチを共有している喜びと、その時だけは手の届かない人と近くなれる瞬間。
会長も本を読んで過ごす事がほどんどだったけど、たまに会話もしてくれる事があって。僕なんて何の話題も持ち合わせていないし、相槌だって下手なのに・・・会長はつまらない顔一つしないで会話をしてくれた。
そんな経験も初めてだった。
大切な、時間だったんだ。
大げさだけど、今の僕には生活の糧とも言えるような事で・・・。
初めてこの学校に来て良かったって、そう思える出来事だったんだ。
prev|back|next
[≪
novel]