僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
20






「一つ・・・聞いてもいい?・・・言いにくければ言わなくて良いから。」

「はい?」

 会長は報告用紙を片手にベッドのすそに腰をおろした。ギシっと鳴ったベッドと会長の姿に居たたまれなくなり、視線を手元に移す。


「イジメ・・・に、あってたりする?」


 会長のその言葉にぎゅっとシャツの胸元を握り締めた。


「いいえ・・・」

「そうか。イジメなら見てみぬフリは出来ないから・・・古い傷のようでもあったし、どうかと思ったんだけど」


 体温計を差し込むときにみられたのだろう。こんな形で誰かに見られるなんて思いもしなかった。ましてや会長に・・・。

 知られたくないなんて思ったことも
 知って欲しいと思ったこともない

ただこんな風に聞かれたことすらなかったから、なんと答えていいものか分からない。変に話しをして情を買うようなこともしたくないし、そんな情は与えて欲しくなんてない。


「・・・ごめん」


 黙り込んだ僕にそんな砕けた謝罪の言葉が降ってきた。

「気にしている事・・・聞いたな」

「・・・・とんでもないです。気にしてないですから・・・傷も古いし、そんなに目立つものでもありませんから。なんとも思っていません。なので、なんて答えていいのか・・・分からなくって。・・・イジメなんかじゃないですから、本当に」


 僕のせいで会長に気まずい思いをさせたくなくて必死に弁解する。生徒会長としてイジメを目の当たりにしたら避けられないだけだろうから。

 それだけ、だ。



「そうか・・・」

「僕、寮に戻りますね。・・・すいませんでした、運んでもらって」


 枕元にあったネクタイと傍の椅子にかけてあった上着を手に取るとベッドから立ち上がる。

「あぁ、ちゃんと睡眠取った方が良い」

「はい。ありがとうございます・・・失礼、します」


 平静を装い、保健室を出ると、寮へ急いで帰った。


 早く

 早く・・・

 動けなくなる前に、僕が僕であるために

 


 あの温もりは夢なんかじゃなかった。会長に運ばれた時の、その温もり・・・。


 いつまでもあの温もりに浸っていたいと

 何度も貪欲な僕が顔を覗かせていて



 気付きたくなんてない




 自室に駆け込むと、いつものようにCDを手に取り、音楽を流す。そうやって自分を音楽の世界に閉じ込めて・・・

 分かっていた、分かっているんだ


 そうやって・・・いつからか現実逃避をし続けている自分の事を。






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