僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
19






 下駄箱で靴を履き替えると、僕の足は吸い込まれるように中庭へと向かった。

 この時間なら、大丈夫。

 会長があのベンチを使うのは早朝だから。きっと人目につきやすいであろう放課後には座らないはず。
 少し休むだけ。そう思ってあの大きな木の下のベンチへ向かう。

 眠気があるのは、先ほどの森岡との行為のせい、そしてちゃんと睡眠が取れている気がしていない毎日のせい。とにかく身体が重かった。

 少し、休憩するだけだから・・・。


 夕焼けに照らされたそのベンチ。

 日中木漏れ日の当たるそのベンチは夕方になると西日を受けていた。
 ベンチに座ると腰が痛んだけど、それでもこのまま15分かけて寮に帰るよりは少し体を休ませた方が動けそうな気がした。

 西日がとても暖かくて、目を閉じるとすっと闇に吸い込まれそうになり・・・慌てて目を開けようとしたけど、僕の意識はそこで途切れた。





 ふわりとした、温もり。


 温かくて、温かくて、もっと包まれていたいと思うのに・・・それを口にすることが出来ないのは僕のせい

 そんなことさえ、すぐに忘れてしまえるから・・・


 忘れてしまえば・・・良いから










 ―――・・・

 目を開けると天井が見えた。
 白いカーテンに写るオレンジが夕焼けだと気付くのに少しの時間が掛かって、それから自分が保健室らしいベットで横になっているんだと認識するのにもう少し掛かった。

 ・・・なんで?

 ベンチで目を瞑った記憶はある。・・・なら誰がここへ運んでくれたのだろうか?

 運ばれている事に気付きもしないで・・・。夕焼けがまだ差し込んでいることからそれほど時間が経っていないことは分かる。短時間に深い眠りに入っていたのだろうか・・・。


「―・・・起きた?」

「・・・っ!?」

 その声に驚き、慌てて身体を起こした。カーテンの向こうから顔を覗かせたのは生徒会長。
 目の前に居る生徒会長が信じられず、何度もその姿を目で確認する。

「ベンチで・・・眠ってたよ。何度も起こしたんだけど目覚める気配がないし、顔色・・・よくなかったから保健室に連れて来たんだけど」

「す、すいません・・・・」

「熱も勝手に計らせてもらった。あと手帳から名前も確認させてもらったから」

 そう言って保健室の報告用紙を僕にかざした。

「すいません」

「ははっ、謝ってばかりだな。微熱が出てて7度6分だった。疲れでも溜まっているのか?1年生」

「・・・・かもしれません」

 そう、会長に曖昧な笑いを返して。
 枕元には自分のネクタイが置かれていた。シャツのボタンも上から3つほどが外されていて、会長が熱を計ってくれたのだと分かったけど、森岡とのあんな行為の後に肌を晒した事がとても恥ずかしい事のように思えて、ボタンを閉めていく。


「・・・・田嶋。手帳、拾ってくれてありがとう。・・・この間は君ってすぐに気付かなくて悪かった」


「――――! い、いいえ。とんでもないです、そんな事・・・謝らないでくださいっ!」


 会長が謝る事なんて何一つないのに。

 もう、会長と関わる事も、あの手帳に関する話も済んだ事だと思っていたのに。まさか話しをふられるなんて。

 何より、また僕のことなんて忘れられていると・・・そう思っていた。






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