僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
15





 かすかに聞こえる話し声が、全て僕の噂話なんじゃないかと落ち着かない。

 内容の分からない会話なんて気にしても仕方ないのに、僕は何を恐れているんだろう・・・。


 授業を受けても、朝の会長のことや、佐古の言葉が頭を占めて。

 あれから、あまり顔を上げたくなくて、ずっと下を向いたまま教科書を意味もなく眺めていた。黒板の文字を写すのに時折顔を上げる程度で。

 誰も、僕を見ていない。大丈夫、と繰り返し言い聞かせて・・・。



 そしてまた、昼休みに入って直ぐに僕の傍にやってくる影。

 顔を上げればクラスメイトがそこに。

「な、に?」

 バカみたいに、おびえた声しか出なかった。

「田嶋、森岡と同室だろ?」

「うん・・・」

「もう森岡に食われちゃったワケ?田嶋も男いけるんだ?」

「なっ!・・・何言って・・・」

「何ってそのまんまだろ?あの森岡が同室に手を出さないなんて考えられないよ。森岡が田嶋を抱く気になったかどうかってのは俺らにはわかんねーけどさ」


 ・・・っ、僕に魅力はないと自分でも分かってるけど・・・そんなの関係なく抱かれた感じだったし・・・。


「な、ないよっ。」

「・・・・そうなのか?」

「・・・うん・・・」


 嘘をついた。


 でも自分の身を守るために嘘をつくのは・・・悪くないだろう?初日に抱かれました、なんて誰が言うの?これ以上変な噂を立てられたくなんて無いんだ。


 つまらなさそうに去っていくクラスメイト、その姿の向こうで、森岡がこっちを見ていた。

「――――!」

 僕と目が合った瞬間に、ニヤリと笑う森岡の姿に背筋に寒気が走った。

 森岡はさっきの話しを聞いてたんだ―・・・。


 森岡から目を逸らすと、昼食を取るべく教室を後にした。きっと森岡は気分よくなかっただろう・・・僕に嘘つかれて。
一言、今晩にでも謝れば良い。ちゃんと理由言えば分かってくれると思うから。




 そのまま食堂に行くには朝のような事になるのも嫌で、購買でパックのコーヒーとパンを買い込むと屋上に向かった。
まだ寒い屋上には人影も無くって、端に座ると買ってきたパンを開けてかじりついた。

 たまに吹き抜ける冷たい風に髪の毛が舞って、それを少しうっとうしくも感じながら、ぼそぼそと食べるパンは味気なかった。


「・・・・おい」

「!」

 大きく肩を揺らして、振り向くと赤毛の彼がそこに立っていた。


「何そんなにびびってんの?」

 びびりもするよ。誰も僕に声を掛けてきて、良い事なんてないんだから。きっとこの彼も僕に何かを言いたくて、僕に何かをぶつける為に声を掛けたに違いないんだから・・・・。

「何の用?」

「冷たいね。えーっと田嶋椿、だっけ。」

 昨日会ったばかりで大した会話もしてない、ただ存在を知っているだけなのに彼は僕の名前を知っている。

「・・・」

「俺は田嶋の隣のクラス、6組の瀬川 皓 (セガワ コウ)」

 5組の僕とはこれから体育の授業で一緒になることがあるって事なんだろう。ぼんやりとそんな事を考えながらまたぼそぼそとパンを口に入れた。

「なんか反応ないの?」

「・・・・君が・・・用事があって僕に声を掛けたんだろう?」

「そんなツンケンすんなよな。」

 そう言って僕の隣に座るとふわっと煙草の香り。きっとこの屋上で吸っていた所に僕が来たんだろうか?
なら、僕は邪魔だったのかもしれない・・・何か起こる前に去るのが一番だ。

 さっき学習した所だ。

 そう思えばまたパンを袋に戻して、瀬川と入れ違いになるように立ち上がろうとした。

「待ってよ」

「―――な、に。」

 とっさに掴まれた腕が、引っ張られ、座れと言う。崩れるように、力任せにその場に座り込んだ。

 近い、瀬川が。





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