僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
13






 まだ静まっている学校。

 寮を出た僕は、足早のまま校内の中庭へ足を運んだ。そしてあの大きな木の傍のベンチに腰をかける。
ここなら、人の目につかないから・・・。

 あの時、手帳なんて見つけなければよかった。見て、見ぬフリすればよかった。


 会長だって、僕が取ったかもという疑いを持っているかもしれない。そしてこの先だってそんなイメージで見られるだろう。

 折角の接点もそんなものじゃ意味がない。

 どうせなら良い印象で僕のことを知って欲しかった。こんなことなら、僕のことなんて知らないままでよかった。ただ、影から見ているだけでよかった。


 周りだって、昨日の廊下の一件を見てあっという間に噂になって、挙句ストーカーだなんて…。

 森岡の事も…!
 なんで抱かれたってバレているのだろう。きっと森岡が今までもそうやって誰でも抱くヤツだったって事?皆、それを知って?

 僕のイメージばかりが一人歩きして・・・

 いや、イメージじゃない。それが“僕”なのかも知れない。僕さえも気付いていないだけで。

 見た目だけで、声だけで会長に惹かれて。簡単に森岡に抱かれた。

 ―――・・・誰も間違ってなんかない。

ベンチに座りながら、頭を抱えた。
自分の許容を超えそうだ。
もう訳がわからない。どうしていいかわからない。
なぜ、なんで、僕が…。

いつもだ。いつも僕だけが…。



「隣、良いかな?」


 凛と響くその声。
 顔を上げなくたって分かるほど・・・僕には強烈だったあの始業式。


「織田・・・生徒会長」

「この場所が落ち着くんでいつもここに座らせてもらってるんだけど・・・。良いかな?隣」


「は、はい。」

「ありがとう。ここには余り人が来ないからよく居るんだけど・・・・久々に生徒を見たよ」

 しかも、こんな早い時間に、と続けた会長。

 思っていたよりも喋るんだ、と思いつつ広いベンチなのに、会長が腰を下ろそうとする姿を見て端に寄った。

 広めのベンチの端と端。
 それ以上の会話を交わすこともなければ、会長は何かポケットから小説を取り出し読み始めた。

 いつも、ここでこんなふうに読書を・・・・。

 確かに読書にはもってこいの場所だった。中庭から一歩入って静かだし、大きな木が眩しいくらいの太陽の日差しをやわらげてくれている。誰にも・・・邪魔されない。


 会長は、いたって普通に僕に話しかけてくれたけど、その胸の内まではわからない。昨日の今日で、簡単に僕を許すとは思えない。そんなフリをしているのかも。会長だからそれくらいの事で問題にする事もしないだけで・・・。

 ちゃんと、謝っておくべきかもしれない。
 僕だって誤解されたままじゃ嫌だ。

 きっと会長と二人きりになることなんて、この先無いだろうから、今がいいチャンスだ。



「あのっ、・・・・昨日の事」

 僕の声に本から視線を上げ、顔を向ける会長。その一つ一つの動作に、さらさらと風に揺れる前髪に、思わず見惚れそうになって、言葉が詰まりそうだった。

「なに?」

「昨日の、手帳の事・・・・っ、本当に拾ったんです。ここで」

「昨日・・・」

「このベンチの、ここにっ。ここに挟間ってたんです・・・」

 そうやって挟まっていた隙間を指差し、会長に訴える。
僕が取ったんじゃない、たまたまだ、ストーカーなんかじゃない、と。

「・・・。・・・・あぁ!昨日の。・・・・そうか君は・・・昨日生徒会室に来た子だ?あの赤毛と中性的な子と一緒に来てた・・・」


「―――っ!」



 あぁ、恥ずかしい。

 なんて恥ずかしいこと考えてた?

「す、すいません。・・・失礼します!」


 慌ててベンチから立ち上がると、その場を去った。どこでもいい、早くこの場から去りたい、逃げたい。姿を消したい・・・。

 誰にも見られたくない。


 何が僕のイメージだ。
何を一生懸命弁解するんだ。

そんな必要なかった、勝手に舞い上がってしまった。
 会長は昨日僕に会ったことさえ、覚えてなんて、無かったじゃないか・・・。





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