僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
12






 朝起きて、空腹の自分に苦笑を洩らしつつ、制服に着替えてすぐに食堂へ向かった。


 寮の離れにある食堂は、さすが3学年が入るだけあって広々としていた。時間が早いせいか、生徒の姿はまばらにしか見当たらなくて、中には制服に着替える前の人も居た。

 朝食を受け取ると窓際のテーブルに座り、朝日を受けながら外の木々を眺めた。

 学校も、寮も、隅々まで手入れが行き届いていて、本当にお金をかけた学校だと節々で思わされる。


 自分の二人の兄も、頭が良くて中学校から良い学校へ通っていた。
 特に一番上の兄は中学から寮生活で心身ともに上流階級らしい生活を身につけていて、幼い頃から言われ続けていたであろう、父の後を継ぐという事も何のプレッシャーにも感じずとても強い兄。
 そしてそれが当たり前で、その道に進むべく高校を卒業すれば海外にでた。そして父の会社に入るのだろう。

 二番目の兄も、親の経営する会社に就く気はなくとも早くして志すべき道があり、それに向かって進んでいる。


 そして、僕は

 中学も至って普通の市立を卒業して、高校も特に行きたい所もなければ、入れるところも限られていて。そして、新しい自分になりたいと、ここへ来た。

 この学校にもお金だけで入学したわけではない、頭の良い人はたくさんいる。それでもこんな僕でも受け入れてくれる学校。


 両親もここへ入学を申し出た僕に何も意見を出す事はしなかった。

 なぜこの学校だとか、校風の事とか、将来の事とか・・・・何一つ興味を示さず、聞かれず。

 ただ僕の言葉に頷いただけだった。なんの言葉もなく・・・。かけてもらえる言葉もなかった。



「はぁ」


 やめだ。
 気分を沈めるだけの考えは無しにしないと。

 将来のことなんて、どうなるか分からない。明日、生きていれるかさえ分からない世の中だ。ならばずっと先を考えるよりも、今を、この高校生活を楽しむことを考えたい・・・・。
そう思ってここにきたんじゃないか。


 少しずつ増えてきた食堂内。
 そして、僕の横を通り過ぎる生徒の視線が、僕を見下ろしているような・・・僕を見ているような、そんな気がして・・・。

 初めのうちは気のせいだと思っていたけど、どうやらそうじゃないらしい。

 視線を感じて顔を上げたらばっちり目が合った。

「?」

 問いかけるような視線を返しても、誰も何も言ってこない。過ぎ去ってから何かこそこそ話しをされて、なんだか気持が悪かった。

 それからも一向に止む事のない僕への視線。

 生徒がどんどん増えていく中、ご飯を食べ終わりトレイを下げに行く途中、かすかに聞こえてきた会話に目を見開いた。


「ほら、あいつが・・・」

「手帳パクったっていう?」

「そうそう、会長のストーカーだろ?おとなしそうな顔してな・・・」

「しかも森岡と同室なんだろ!?」

「わぁ、やっぱりもう寝たんだろうな」

「他所から来たから何も知らなかったのかもよ?」


 渦巻くように、自分にまとわりつく会話の数々に足元から震えが上がってくる。

 返却口までがとても長い距離に感じられた。
 そんな会話を聞いて、まともに顔なんて上げてられなくて、ずっと下を向いて歩くだけだった。

 返却口に、トレイを置こうとしてその棚にぶつけてしまいカシャっとトレイ上の食器が揺れた。

「ちゃんと見ろよ」

 そんな言葉と共に、こぼれ落ちそうだった僕のトレイが取り上げられる。

「!」

「制服汚すぞ?」

 目の前に立って、僕のトレイを戻してくれたのは、昨日僕を生徒会へと連れて行った赤毛の彼だった。


「・・・ありがと。」

 それだけを言うと、足早に彼の脇を通って少し早めだったけど学校へ向かった。





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