僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
11





「声聞いて、オカズにしちゃった?」

「して、ないっ!」

「ふーん、そう?いい声で啼かせてみてたんだけど・・・聞こえなかったか」


 聞こえてた、けど聞きたくなかったに決まってるじゃないか!
信じられないという顔の僕を見て、森岡はたのしそうだ。
 ぐっと近づいてくる森岡から視線を逸らした。


「今から風呂、行くんだ?」

 僕との身長差を埋めるように屈んで、そして覗き込んでくる。


“良かっただろ?どうなの”


 近づく唇が、昨日の森岡の姿を思い出させた。契約を交わすように重ねた唇を。

また、同じ事される―――!

 と、反射的に避けたのに、痛いくらいに顎をつかまれて「ぐっ」と蛙のような声が出た。
無理やり顔を上げさせられると唇が重なる。

 森岡の熱い唇に・・・また、流されそうだった。
流されない、流されるものか、と思考が回る。


「・・・・・・んぅ」


 しばらく重なっていた唇がそっと外れた。

「俺に、抜いてもらう?」

それはもう悪魔の様な微笑み。
目の前の優しいほほ笑みに吸い寄せられそうになる。だめだ、これはダメな笑顔。

そして、さっきの声が蘇る。
森岡はたった今さっきまで………!

「い、嫌だ!」

 大きくかぶりをふって、力を緩めた森岡を跳ね除けると一目散に風呂場に繋がる扉に駆け込んだ。


「―――・・・っ」


 後ろ手に扉をしめ、もたれかかり力を抜いた。

 顔を上げれば正面の鏡に映る自分に嫌悪した。

 みっともなく頬を赤らめ
 軽く自分の身体を差し出し
 挙句に嫉妬の感情まで持って
 何様なんだ。

 今にも泣きそうな、鏡の中の僕。

 それは僕なの?


 シャツのボタンを外し露になった自分の肌を見て、やっぱり自分だったと確信する。


 鏡に映った僕の肌―・・・こんな汚い身体で
 森岡の物にでもなった気でいたのか?


 森岡は気付いただろうか。それとも中途半端にはだけたシャツじゃ分かりにくかったか。

 僕に必要とされているのは、穴だけだから気にも止めなかったかな・・・


 体中にある、無数の細かい傷。殆どが目立たない所につけられたもので、それがいつからのものかなんて覚えていない。
大げさになるほど大きな傷でもない。
小さな擦り傷だったものが薄いケロイドとして残っている。かさぶたを自らストレスで掻きむしって沈殿した色素も。

 そっと冷えた指先で触れると、ざらりとした感触。


 しっとりと吸い付くような肌が欲しいなんて思わない

 この傷を消したい、と思うほど大した傷じゃない

 それでも、自分に与えられたこの傷を疎ましく思う瞬間がある。


 親さえ知らない傷は、家政婦による幼児虐待の事実。


 家に居ない両親の代わりに、幼い僕の面倒を見てくれたベビーシッター兼、家政婦。二人の兄が学生寮に入ったり、学校に通っている時間帯にそれは行われていた。

 煙草の火種を落とされたり、殴る蹴るの暴行。物心ついた頃にはすでに毎日の事になっていた。
 雇われる人が変わって、新しい人が来てもそれは何も変わらなかった。

 全ては僕の性格がそうさせるんだと、皆口々に言う。だからといって口を閉ざせば気に食わないと殴られる。
そんな毎日。誰かのストレスのはけ口。

 そして、新しい生活をと求めたこの場所でも、結局森岡のストレスのはけ口でしかないんだろう。
 そうやってどこまでも僕は受けて生きていくしかないのか。
 変えようと思って、期待していた高校生活だったのに、初めからつまずいて・・・やっぱり僕は僕でしかない。






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