僕をよろしく | ナノ
僕をよろしく
09
赤毛の彼に引っ張られるまま連れてこられたのは生徒会室。重々しい扉を赤毛の彼がノックする。
隣には女の子のような彼も一緒について着ていた。
扉の向こうで返事をする声が聞こえて、赤毛の彼がそっと扉を開いた。
「―――失礼します」
「ん?・・・・君達は一年生だね。どうかした?」
扉を開けて相手をしてくれたのは眼鏡をかけた2年生。スラリとした体つきに、眼鏡の奥には透き通った綺麗な瞳。
「戸口先輩、すいません・・・あのコイツが会長の手帳を所持してて・・・」
ぐいっと急に前に突き出され足元がふらついた。
「会長の手帳を?」
「はい」
黙こくった僕の変わりに赤毛の彼が全て先輩の受け答えをする。2年の戸口先輩といえば確か風紀委員長だった気がする。
視線を上げれば、その切れ長な瞳に見据えられた。
「えっと、じゃぁ取り敢えず座ってて」
僕からの視線を緩めると、一気に力が抜けるようだった。促されたソファに腰を下ろすと、戸口先輩は奥の部屋へと消えていった。
「すっごい、生徒会室って広いね!それにいい匂いがする」
「ソファもすっげぇ沈む」
僕を連れてきた女の子のような彼と赤毛の彼は楽しそうにそんな会話をして、キョロキョロと室内を見回していた。
その間僕はそんな余裕もなく、じっと握りこんだ自分の手を見るしかなかった。
しばらくして奥の扉が開き、そこから現れたのは先ほどの戸口先輩と・・・織田会長。
その会長の姿に、また僕の胸が跳ねた。
「・・・・で?」
織田会長の口から発せられた音は、僕が想像していた声じゃなかった。凛とした声に変わりはなかったが、その中にも不機嫌さが漂っていて、跳ねた胸は一気に違う意味でドクドクと跳ね始めた。
「うん、この子が手帳を持っていたらしいですよ」
「俺の手帳を?」
向けられた、射抜くような視線にすくみ上がる思いだった。佇むだけでオーラがあって、威圧される。
近づくことさえ許さないと言われているような・・・そんな空気。
「ひっ、・・・拾い、ました。・・・中庭っ!でっ」
振り絞って出した声は小さく掠れていて、こんなんじゃ余計相手を不機嫌にさせることは、今までの経験から分かっていたのに、どうすることも出来なかった。声が震えてなかっただけでもいい方だった。
「嘘つくなよ」
すかさず入ってきた赤毛の彼の言葉に体が強張る。どこまでも僕が盗み出したと疑って止まない僕を責める声色。
「嘘、じゃ、ない…」
「でもお前は直ぐに返そうとしなかったんだろ? 拾って直ぐに何で返さなかったんだよ!」
「じ、時間が・・・なくて・・・チャイム、が、な」
僕を見つめる4人の視線を受けて、全てが疑いの目なんじゃないかと、そう思えてくる。
喉がぎゅっと狭まる。
息をする事も苦しくて、言葉が出てこない…。
何を言ったって信じてもらえそうにないのなら、認めてしまえば・・・いいんだ。
「―――・・・す、いませんで…した。」
足元に視線を落として、小さく頭を下げる。綺麗に磨かれた床だ、とか。木目をただただ見つめた。
顔を上げたくなんてない。これ以上疑いの視線を受け止めることもしたくない。
早く、この場から去りたい。
消えたい。
「・・・・織田会長」
戸口先輩の声が聞こえた後、小さく会長のため息が聞こえた。
「もういい、手帳が戻ってきたのならそれでいい。・・・・君、どこで拾ったって?」
「な、中庭の、ベンチ、の・・・、っっ、隙間に・・・・」
罪人のような気持ちになりながら、今にも消えそうな声で答えた。
「そうか。・・・・ありがとう。もう下がっていい。」
静かな会長の言葉はため息のようにも聞こえた。
「し、失礼します!」
女の子のような彼がそう返事をすると、会長の言葉に動けなくなった僕は赤毛の彼に引かれやっと動く事ができて、そのまま連れ去られるように生徒会室から出た。
会長は、僕が取っていないって事を信じたというよりは“そんなことには興味がない”という感じだった。どちらにしろ、咎められることもなく済んだことに胸をなでおろした。
そんな僕とは対照的に、少し前を歩く赤毛と女の子のような彼等は生徒会室に足を運び、会長と過ごしたという事実に興奮しているようだった。
そして、もう僕には何の興味も示さない。
先を行く二人に声も掛けず、僕はそっと廊下を曲がり彼らから離れた。
身を隠したところで胸に手を当てて落ち着かせる。呼吸がくるしい。疲れた神経で何も考えることをしたくなくて、そのまま寮に戻った。
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