僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
24





「そこに生まれたのなら、仕方ないって受け入れてけばいいんだよ」

森岡はきっと、受け入れてきた人間。
僕と詠仁さんは心のどこかで反発してきた人間。
多くの疑問と多くの悲しみに包まれて…。

「森岡は詠仁さんのこと、どう思ってんの」
「めんどくせぇ人間。…椿、お前もな」

僕はそんな森岡の言葉に笑みを洩らした。
森岡にはバレてるんじゃないか、僕と詠仁さんがただ傷を舐めあうだけで先に進めないって事。

だから、引き止めてたの?
自分の兄弟だから、佐古との事があるから。
僕では役不足って分かってたから、また同じ事が繰り返されて森岡に降り掛かるって、知ってたんだ。

「俺は受け入れなきゃ生きていけねぇ所に生まれたんだよ。ただそれだけだ。反抗したって結局フィールドは親父の掌だ」

足元を見つめる森岡の表情は僕が見たことがないくらい静かで穏やかな表情だった。

「家庭環境に甘えて、散々やったんだよ。贅沢な人生に面白さ感じられなくって、荒れて、人の命とかなんてこと無いって、もちろん自分の命だって、そう思ってた。……死にかけたツレをさ、助けたのは親父だった」

「親父は言ったよ。俺が親父を嫌がったって、いくら反抗したって、親父の息子であることは変えられない事実だって。事実は受け入れなきゃいけないんだって教えられた気がしたんだ」

環境がそうさせた。
この年でそこまで考えなくちゃいけない環境ってどんな感じなのだろうか。

「親父が外に何人も女作ってる事も知ってたし、そのことに関してなんとも思わなかった。元から家に居る人間じゃなかったしな。で、薮内が自分の兄だって聞いたときも、大して驚きもせず、外に子供が居た事は“予測”していた事じゃなくて“事実”となったんだよ。だから、俺は受け入れた」
「そんな簡単に受け入れられる?森岡だからできた事だろ。詠仁さんはきっとそんな簡単には無理だ」

「受け入れたら良いんだ」

きっと、それは森岡の闇。
森岡はそうやって生きてきた。
全てを受け入れて…。

でも、僕だって…。

「でもそれって結局…」
「諦めじゃねぇぞ。受け入れるんだよ」

トン、と森岡の拳が胸にぶつかる。

「諦めって、自分も空っぽになるだろ。それじゃ駄目だ。きっといつかどこかで、諦めきれねぇ自分が現れるよ。お前の諦めは諦めじゃない。お前は一度俺を受け入れたんだよ、初めて体を合わせたときに」
「……わかんないよ、ソレ」

僕はあの時諦めた。
森岡に抵抗したって変わらないのなら、と楽な方に逃げたんだ。

「足掻いてひっくり返るなら、足掻くさ。けど、親父の性格も今更俺が言う事じゃない。母親が散々手を尽くした。薮内の事だってそうだろ、俺が拒絶したって父親には響かねぇよ。俺が拒絶したら、薮内はどうなるよ。アイツはただ生まれただけだ、そこに。何も悪くなんかないだろ。俺の拒絶は薮内が生きてきたことを拒絶することと一緒だ」

椿は悪くない。
そう言ってくれていた森岡の真意が分かったような気がした。
口では色々言っていたし、態度だってあんまりな所がある森岡だった。詠仁さんとは犬猿の仲なんだって思っていた。
けれど、森岡は心でちゃんと受け入れてた。

「まぁ、えらそうに言ったけどさ。俺だってちゃんと全てが分かってる人間じゃないから…受け入れろって、お前に言うのも自分に言うのも、そうした方が自分が楽だからだよ」

森岡が伝えたかった事、なんとなくだけど、分かったような気がする。

今の僕なら、過去の僕に何か言葉を掛けることが出来たかもしれない。
過去の僕が過去のままなのは仕方のない事で、けどこのことでこれからの僕の考え方は変わるのかもしれない。





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