僕をよろしく | ナノ
僕をよろしく
23
退院の手続き等、森岡に任せっぱなしで、僕はぼんやりとその全てを眺めていただけだった。森岡はその間、何度も僕の体を気使う言葉を掛けてくれた。
元気だった。
ご飯を食べても吐き気は起こらないし、体力も戻っていた。気持ちも、すごく落ち着いていた。
「椿は何も悪くない」
僕が森岡に頼ってばかりいる間、森岡が常に口にすることだった。
何も悪くない、けれど、僕はそこに必要だった?
僕の人生、全てにおいて「否」だ。
クスリと笑った僕に、森岡が声を掛けてくれたけど、なんでもないとごまかした。
イヤホンを耳に入れ、外の音を遮断した。
寮に帰っても、僕はひたすら音楽を耳に流し入れるだけだった。何も必要ない、必要とされない。
僕は平凡に勉強して、そこそこ良い会社に就職する事を目指せば良い。何も望んでなど居ない。ただ、先へ進む為に此処へ来たんじゃないか。
家族も、友人と言う名の知人も、僕のこれからには必要性を感じなかったんじゃないか。
全てを変えたくて、ここに居る。
新しい友人を見つけることは出来なかったけれど・・・いや、もう作るのは諦めよう。
頼りにするのは親でなく教師だ。
僕が普通に先へ進む為に、様子を見てもらえればそれで良いじゃないか。
僕は、贅沢に何を望んでいたのだろう。
◇
「椿、どうだ」
ん?と振り向いた先に森岡が居た。
森岡の第一声はこれだ。
僕の具合を聞いてくる。人との接触に対して、睡眠、食欲、その全てを含めてこう訊いてくる。
僕は決まって「大丈夫」と答えるだけ。
森岡は薄く笑みを浮かべて僕に近寄ってくる。最近森岡は佐古とは会っていないらしい。
佐古は一体、今…。
「…そういえば、詠仁さんどうなったの?」
佐古が付いてるの?
なんて事は聞けそうになかったけれど。
「ここに戻ってくるかは未定だけど。でも、お前にはちゃんと謝罪させたい。・・・じゃなきゃ俺が許せねぇしな」
それはそうだ、何度も兄の尻拭いをさせられているんだからその結末を見届ける権利はある。
詠仁さんがこの学校に残ったとしても、僕はただ静かに日常を過ごすだけだ。
もう、誰にも触れたくない。
「薮内を…どうしたい?椿はどう思う、薮内にどんな処分を下す?」
「…処分?」
処分とは、退学だとか、そういったことだろう。目に付かない所へ追いやってほしいだとか、二度と僕の前に姿を見せないで…、そう、言えばいいのだろうか。
処分、なんて言葉。とても重たい言葉だ。
お前なんか、と罵られた日々。必要ないと言われる僕は、物を捨てるように処理されてもおかしくない。
ただ、田嶋に望まれない形で生を受けた。いや、望まれるだなんて贅沢なくらいで、生まれてしまえば僕には関心など何一つ向いていない。
「詠仁さんには、何も処分を下さないで…」
「でもお前…」
「詠仁さんだけが悪いわけじゃないから。詠仁さんだって望んでなかったんだよ。そこに生まれたから、そこで生活していたから、そこに生まれた感情だから」
仕方なかったんだよ、全て。
やるせなかったんだよ、自分が。
やっぱり僕は詠仁さんの気持ちをわかってあげられるはず。なのに、僕は必要じゃないんだよ。
人間、同じ者は仲間にしかなれない。
欲求を埋める相手ではない。
違う人間なら、魅力を感じて、違うからこそ共に手を取り合って助け合ってアドバイスを貰って刺激を受けて、生きていこうと思えるんだろう。
詠仁さんにとって、それは僕ではなく、佐古で。
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