僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
21






「強姦だろ。腕縛られて、好きなようにされて・・・お前の同意は無かっただろ」
「でも、僕は・・・。抵抗、しなかったし」
「出来なかっただけじゃないのか?」

もういやだ。
森岡の問い詰めは、本当に事細かくて、僕は羞恥に何度も言葉を詰まらせていた。

「腕、痛かっただろ?自由に動かす事が出来なくて長時間同じ形で縛られてたら関節だって痛むだろ」

僕は首を振った。
思い出したくなんてない。腕を縛った時は、必ず詠仁さんは…

「無理やり体を開いていくのか?…どうだった?腕縛っても薮内は優しくしてくれたか?気持ちよかったから抵抗しなかったのか?」

頭の中に響くのは鈍い音。肉が肉を割っていくような音。血がうごめく音。
動かない腕も、揺すられる腰も、声さえも、何一つ自分の意思ではどうにも出来なかった。
内臓を押し上げていく感覚。
僕は空っぽの人の形をしただけの器だった、中身はぐちゃぐちゃにかき混ぜられて――。

きゅうっ、っと胃が収縮するのが分かった。数度、痙攣しているようで、思わずお腹を押さえて背中を丸めた。

「――――っ、う」
「おい、っ」

分からない、僕は何を感じたら良いんだろう、良かったんだろう。今も、何を答えたら良いんだろう。
僕は、何。


喉の奥から、苦い物がこみ上げてくる。
僕が立ち上がろうとするよりも先に森岡が僕を抱えて立ち上がった。

僕は洗面で、数回胃液を吐き出した。

「病院、行くか」
「・・・い、い…や。ヤダよ」
「傷見せるとか、そんなんじゃなくてな。お前そんなんで飯食えるか?食べてもどうせすぐ吐くに決まってるよ。点滴打ってもらおう」

「大丈夫、だから」
「俺は優しくねぇから。お前を気遣って喋らないなんて事はない。荒治療だっつって、薮内とのこと口にするしそれに椿が耐えられるとは思ってない。痛みから逃げるなんて事させるつもりないから」

洗面の鏡の中で森岡と視線が絡む。その瞳に恐怖すら覚えた。

「薮内とあったこと。ちゃんと椿に受け入れてもらう。悲しみも恐怖も、痛みも全てだ」

胃がせり上がり、また僕は洗面に顔を埋めた。
数度吐こうとしてももう何も出てくる様子は無かった。体が震えて指先が冷えていく。

森岡に連れられてベッドに横になると、意識がゆったりと遠くなっていくのが分かる。
森岡が何か僕に話しかけていたけど、何も理解できなかった。





殴られるのも、蹴られるのも痛い。
嫌だって何度も言ってきたんだ。
だけど…。
言った所で?


好きなら、優しくなるんじゃないの
僕、やさしくされたことないよ。

煙草の熱さしってる?
最初が一番熱いんだ。ううん、熱いって言うか、痛い。
少しずつ熱はなくなるんだけど…
その熱いのがなくなるとね、じゅくじゅくって、またいたくなって。
いたいって言ったら、また、たばこがっ…、っ、やだっていったら、痛いことされるから、いえなくて、どうやったらいたいのなくなるかな、っていっつも…かんがえてたんだ。
おかあさんにも、
おとうさんにも、
いたいっていえなかった。


だから、僕はひとりでなんとかしなくちゃって思って。

「気付いたら、痛くなくなってたんだ」

瞼が凄く重たくて。
眼は開いているのか閉じているのか分からなかった。見えるのは幼い頃の映像と、詠仁さんと過ごした数日の映像。

「――そうか。…また、しばらく眠ると良い」

オヤスミ、そう森岡に言って僕は口を閉じた。
もう起きてたく無いって思うのに、また目は覚めるんだ。





prevbacknext




[≪novel]

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -