僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
19







秘書の人に送られて、森岡と共に久々の寮にまで戻ってきた。
寮の入り口を入ると、管理人が僕の姿をみて驚いたように眉を上げた。声は掛けられることは無かったけれど、僕は久々に見た管理人さんに小さく会釈した。

久しぶりの寮は何も変わらなかったし、僕とすれ違ったといって驚くような生徒も居なかった。
部屋も何一つ変わっていない。どこか懐かしさを感じる部屋に、僕は安堵した。此処が自分の居場所だと思えた事と、戻ってきた日常に。




「何された?出来れば詳しく教えてくれないか」

部屋に入るなり開口一番、森岡は投げ掛けてくる。

「――・・・、」

何もされてない、なんて言葉が通用しない事は分かっているけれど、全てを話したいとは思えなくて、口を開いては息を吸うだけで閉じてしまう。

そんな僕の姿に、森岡はイラついているようだったけど、溜息をつくと僕をベッドに座るように指示をした。

僕は持っていた荷物を足元に置くと、ベッドの端に腰を下ろした。

「…拓深の事は聞いたか?」

「少し、だけ…」

佐古も詠仁さんと関係を持っていた。
いや、僕と詠仁さんとの関わりよりも深いもの。二人は気持ちを通わせていたんだ。

詳しく知らなくとも、佐古が今回の僕のような扱いを受けたのだろうと思う。
そんな詠仁さんから逃げるように去った佐古と、詠仁さんは未だ気持ちを抱えたままだと言うことは僕でも理解できた。

「拓深はあいつに酷い目にあわされたんだ」

頷いた僕に、森岡が小さく首を振った。

「お前みたいなもんじゃない、あの扱いはまるで人形だった。発見したのは今回のように親父の秘書で、薮内の過剰な嫉妬で軟禁状態にあった拓深は、誰が言葉を掛けても反応しないまでになっていた。体は痩せ細って気力と言う気力を薮内によって奪われてたんだよ」

僕はその言葉にキュッと自分を抱きかかえた。自分が物のようだ、と感じたあの時。感情の無い瞳で見つめられながら飛んでくる拳。
それを思い出すだけでも恐怖だ。
だからだろう、あの詠仁さんは別人だと僕の脳がどこかで切り離している。

詠仁さんに酷い事をされたとは思っていない。
僕の知ってる詠仁さんはとても寂しくて、人を求めて、そして僕を守ってくれる、詠仁さん。
腕を縛るのも、僕を殴りつけたのも、詠仁さんの仮面を被った“誰か”なんだと。

「警察沙汰になるものも、全て父親がもみ消した。けど、それだけじゃ済まないのが拓深自身だろ。アイツはトラウマ抱えて、人との接触どころか姿を見ることにも怯えてしばらく過ごしたんだ」

あの佐古が。
とても明るく、人の前に立つような今の彼が詠仁さんとの関係で傷を負った人間だったとは…とても見えない。

「快復は早かったんだ。けど、たまに情緒不安定にもなるし、カウンセリングに通う事だってある。ああ見えて色々あるんだよ。未だに人とどう接して良いかわからなくなって、突発的に恐怖感が表に立ったりもしてる」

それでも。
彼らの間に在ったものは。

「でも、詠仁さんは佐古の事、忘れてない」

「好きだからって言って、やっていいことじゃない。感情の大きさなんて関係ない。早く快復することの出来た拓深は強かった。それに比べてアイツは弱いんだよ自分自身に。そんで、それを相手に求めすぎてる」

求めたくもなる。僕からすれば詠仁さんの行動は自分の意思に直結してると言える。求めた末の行き過ぎた行動。

「お前も、拓深みたいになって欲しくない。傷を見せて、手当てして、ちゃんと頭で納得して今回の事整理しろよ。大丈夫だって思ってても、そうでない事だって出てくる可能性がある」

「…森岡が僕の事心配してくれてるの、…凄くありがたいよ。けど、僕にはきっとそんな心配は必要ないんだよ。頭で納得してるとか、心がどうとか…それ以前に僕は不快な事は感情に繋がる前に、切り離しちゃうから」

このことを誰かに言うのは初めての事で、森岡が理解してくれるとは思えなかった。





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