僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
14





喉がからからに渇いていた。
水分を補給できるほど腕が動くわけでもなく、家を出るどころかトイレにすら行かず、ただベッドの上でじっとしていた。
記憶は曖昧だった。時間の流れも分からない。時計すら見ていない。差し込む太陽の光の動きが変わってきていることだけは確かだったけれど、それに関心も湧かなかった。

ただ、僕はじっと詠仁さんの帰りを待つしかない。
動いてしまえば自分の情けない姿を目の当たりにするだけだから、じっとベッドに沈むだけだった。
うつ伏せの状態で、胸苦しさを感じては体を傾けたりして。

柔らかいシーツに頬を寄せて、眠気を感じて寝るのも良いかと思った頃、部屋に物音が響いた。
思っていたよりも詠仁さんは早く帰宅したらしい。この姿から開放されると思うと自然に安堵の息が漏れた。

詠仁さんの足音はまっすぐベッドルームにやって来たのだが。開かれた扉の音が、語っていた。

詠仁さんはあまり生活騒音を好まないようで、いつだって節々が丁寧だ。
何気ない…例えば雑誌一つを投げ出す時だって、音は静かだし、その雑誌が初めからその場に戻るのだとわかっているようなくらい綺麗に動く。変な例えだけれど、それくらい詠仁さんの周りの音は静かなんだ。

その詠仁さんがたった今開いた扉は、取っ手を回す所から、開け放たれた扉が弾かれて震えるくらい――乱暴だった。
僕はぎゅっと目を閉じ、息を潜めてしまった。


「椿ちゃん――」


怖い、と思った。
詠仁さんが傍に来る事がとても恐怖で、呼ばれた名前に返事すら返せなかった。
閉じた眼に映るのは、窓ガラスに腕を叩き付けた詠仁さんの姿。衝動、衝撃、詠仁さんの――

「椿ちゃん」

先ほどよりもしっかりと太くなった声。
ギシリと鳴るベッドの音に僕はうつぶせのまま身じろぐ事も出来ずに、背後に詠仁さんを感じる。
ふわりと詠仁さんの匂いではない他所の香りが僕を包み込んだ。誰なんだ、と一瞬思った。詠仁さんじゃない、今ここに居るのは詠仁さんじゃない。そう思い込みたかった。

「椿ちゃん、ただいま。お利巧に待ってたんだな…本当にえらいよ。とりあえず勃たせてくれる?」

詠仁さんがおかしくなっていく。

「すぐに、口で。腕はしばらくそのままでいいだろ大して苦痛でもなさそうだし」

詠仁さんが僕の頭のすぐ傍にまでやってくる。耳元で聞こえるファスナーの開かれる音。
少しずつ、自分の鼓動も気持ちも落ち着いてきていることが分かった。僕が今を受け入れようとしている事がいやにリアルに感じ取れた。

差し出されたものに、間髪おかずに口を開いて受け入れた。まだ柔らかいそれを、首を傾け必死に舌を動かし刺激する。

詠仁さんがおかしくなってしまったのは、僕が此処に来てから?僕が此処で生活をしているから?
呼び出されて出て行く詠仁さんは確かにいつもとは違っていた。何かがあることは明確だ。
けれど僕が居なければ居ないで詠仁さんはどうにかやり過ごす事だてできるんじゃないだろうか。
僕を攻撃目標とするのは、そこに僕の存在があるからだ。どこにも行けなくなった僕は今、それを受けるしか術がない。

物、だから。


「……ふ、んっ」

質を増した詠仁さんを必死に舐めていく。少しでも事を穏便に済ませようと、頭のどこかで思っていたのかもしれない。
スイッチが入ってしまわないように、言葉は掛けない。支える首が辛くとも、顎が疲れてきても、言われた事を黙々とこなしていかなくては。

早く果てて欲しい。そればかりが頭の中を占めていた時だった。
詠仁さんは僕の前髪を掴むと、僕の口から己を引き抜いた。

(まさか、待って――)

僕の焦りなど感付くわけでもなく、詠仁さんは機械的に体を動かした。
持ち上げられる腰。開かれる膝。
訪れる痛みから逃げられるほど…感覚を切り離せるだけの時間は与えられず、咄嗟に体が強張った。

詠仁さんの体温を感じる掌が長時間曝け出されたままの臀部を覆う。そして指先を使って僕の奥が開かれた。あてがわれたモノの先のヌメリは、僕の唾液。

「ま、待っ…、」

耳の奥で聞こえるはずのない衝撃音が響いた。





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