僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
10






届いたピザにも手を付ける気になどならず、しばらく考えていた。

どうしていいかわからない。けれど…、初めて会った人の言葉よりも、詠仁さんを待つ方を選ぶだろう。
そう決めてしまえば気が落ち着いた。詠仁さんに出て行けと言われればすぐに出て行くだけのことだ。
詠仁さんの機嫌を伺い、自分が邪魔になっているようならそっと静かに姿を消せばいい。そういうのは自分の得意とする事じゃないか…。


数時間待っていたが、詠仁さんが帰宅する様子も無かった。太陽が沈みかけている。
簡単な掃除をしたり、テレビを見て過ごしたが、広い空間に一人きりで過ごしているとどこに身を置いて良いかわからなくなり、結局寝室のベッドの傍、ここへ来た時詠仁さんと座ったようにベランダを眺め座り込んだ。

詠仁さんが今日帰宅しなかった場合、僕はこの広いベッドで一人だ。
自宅からここへ来ても、同じように一人きりなんて――。

頭を振って、思考を飛ばす。いつ帰るか分からない詠仁さんを待つよりも、やはり何かをする方がいいのかもしれない、とシャワーでも浴びようかと思った。

そういえば携帯と財布だけを持ってここへ来た僕は、詠仁さんの服を借りてばかりだった。少しすれば学校も始まるのだし、もう家に帰ることなんてなさそうだから、自分の荷物を全て運び出してしまおう。
出て行くことになったときは寮に戻ればいい。

寝室を出て、リビングにあるチェストの小さな引き出しを開けた。
詠仁さんがスペアキーのことを言っていた事を思い出したのだ。
いくらセキュリティーがしっかりしているとはいえ、開けっ放しで出るのはどうかと思った。それに、これで僕はまた此処へ戻ってこれる。

身支度を整えると、久々に自分の靴に足を入れて玄関の扉を開けた。
食事を頼む時に、詠仁さんが口にしていた住所は回数を重ねる事で覚えた。此処からタクシーで駅に向い、自宅へと帰る。往復するだけのお金なら、僕のお小遣いでも何とかなりそうだった。


久々の外は暑いとはいえ、気持ちが良かった。

詠仁さんがいつ帰ってくるか定かではない、だからこそ早く帰って来たいと気持ちが焦る。
タクシーに乗り、電車に乗り、着いた自宅はこの間出てきた時と何も変わらない。

何も変わらないその建物に、そっと問いかける。
僕が出て行ったことを誰か気付いたのか。
僕が居なくなった事を不審に思わなかったのか。
心配、するようなことは無かったのか…。

僕はそっと気持ちを切り離しにかかった。

夏休みに帰ってきて見たのと同じように庭の草花は生き生きしている。きっと今日もハウスキーパーのあの人がいるのだ。
玄関の鍵を開けて、目から入る情報が頭で理解する前に自室に駆け込む。
ベッドの脇に置かれたバッグに服を詰め、寮から出てきたままの状態に新たにCDと本を入れた。
ジッ、と口を閉めると肩に担いでまた玄関に向かう。

他に何をする用事も無い。
相変わらず、ここには僕独りだと気付いて、少しだけ肩が震えた。
けれどまた、何も考えないように鍵を閉めて駅へ向かった。

次ここへ戻ってくる頃は、すっかり寒くなってからなのだろう。
また同じことの繰り返しか、それともその頃の僕は少しくらい…成長しているんだろうか。






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