僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
07






その冷たさが何から来るのか、どこから来るのか、僕には判らなかったけれど、ただ冷たい、と感じる。
広さや大きさに感動する以前に、モデルルームのような無機質でいかにも作られたような空間だからだろうか。

「こっち、おいで」

そう誘われたのはリビングを突き当たった扉の向こう、どうやらそこが詠仁さんの部屋のようだった。
目に飛び込んできたのは大きな窓だった。そして驚く事にカーテンが掛かって無いからだろう、大きな空をそのまま切り取ったように見える。リビングから続くバルコニーもこの部屋に接している所は大きく広がっている事も開放的に感じさせていた。

「カーテンが…」
「うん、周りに建物が無いから、覗かれる心配もない。本当は別の部屋に居たけど、こっちに部屋変えたんだよ。まぁ数ある部屋のどこに居ようが一緒なんだけどな」
「すごい、羨ましいです」

ここからなら、晴れた夜は星を眺める事が出来るだろう。天気のいい日には、気持ちのいい日差しが入ってくるのだ。

「空、独り占めできるだろ」

詠仁さんの笑い顔を、ようやく見れたと思った。
この部屋に入ってから、落ち着くと感じたはきっと詠仁さんの私物があるからだろうか。それとも詠仁さんの気持ちの緩みもあるのだろうか。
広いリビングよりも、この部屋が良い。この大きな窓が良い。

お互いに、自然とベッドの高さを背もたれにして、窓に向かって床に座り込んだ。

そっと腰に回された詠仁さんの腕は、力強く僕を引き寄せる。先ほどの、触れる戸惑いも無かったかのように。

「親は滅多に帰ってこないから、ゆっくりして行くといいよ、数日でも…一週間でも」
「えっ…、」
「俺んとこ片親で、母親はずっと外に居る。稀に帰ってくることもあるけど…一瞬だよな。たまに思うよ。本当に親子かって」

こんなに広い家に、殆ど一人で住んでいるということになるのだろうか。

「だからさ、こんな広い家は必要ないんだよ。でも、この窓だけは、ここから見える景色だけは気に入ってる」

僕はその言葉に小さく頷いて、詠仁さんに甘えた。少し強張った身体を、詠仁さんに寄せて、静かに空を見つめた。

「もうすぐ、夜が明けますね」
「朝日…、椿ちゃんと見ることになるとは思わなかったよ。言ったのにな、甘やかすとつけこむって…」
「今、甘やかされてるのは…僕の方じゃないですか?」

傷つけられても、それでも。
冷たいと感じる家で過ごす詠仁さんと、幸せな家族団欒のに馴染めない僕。傷つけらて、利用して、そんな理由を条件に差し出して傍に居るような。

不毛だと言うだろうか。
他人にはそうであっても、僕には、僕達には得るもの以前に傍に居る事が大切だと思う。

「甘やかすよ。ここに居る二人きりの間は」

やせ細った心を満たす何かを得たくて。
ただ甘えて甘やかして、得た気になって。
僕達は貪欲だ。

「詠仁さんのお母さんはキャリアウーマンなんですね。女手一つで詠仁さんを育てて、こんな家に住んで…。浪費家の僕の母にも教えたい」

クツクツと、笑う詠仁さんの動きが伝わった。

「俺の母親も浪費家だぜ?多分、椿ちゃんとこ以上」
「そんなこと…」

「母親はろくな仕事してない。今も何やってるかわかんねぇし。この家だって…俺の父親となる人間の金使って住んでるんだからな」

詠仁さんの笑いは止まらない。

「何かにつけて俺の名前出して好き勝手やってる。まぁそんな母親に簡単に金を与える父親も父親だけどな」

冷たく、止まる事のない詠仁さんの笑いを身体に感じながら、僕は明るくなってきた空をぼんやりと見つめ続けていた。






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