僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
07






 15分程の道のりのはずなのに少し時間が掛かってしまった。未だ引かない体の違和感を引きずって、ざわついた目にある教室の扉を開けた。

 誰もが会話や遊びに夢中で僕の事なんか気にもとめない。僕が昼まで居なかった事にさえ、誰も気付いてないかもしれない。


 席に着くと、鞄の中身を取り出し机の中に詰め込んでいく。しばらくして初日に声を掛けてきた隣の席に集まる三人組みが僕に気付いた。

「あ、えっとシマダだっけ、どうしたの?こんな時間に登校って。」

「…え?ぼ、僕?あぁ…名前、田嶋。朝はちょっと朝体調悪くて…」

 名前を間違えられたことも、遅刻を聞かれたことにも居たたまれなくなり、視線を手元に戻して答えた。

「わりぃ!田嶋か。た、体調はもういいのか?いきなり登校拒否かと思ったって!」

 視線を逸らした僕に悪気を感じたらしいけど、周りの奴等からは小声で「名前間違えんなよ」「登校拒否とか早すぎだし」なんて冷やかし、面白がる声が聞こえた。彼の目には、僕が登校拒否しそうなタイプに見えるんだろう。

 たった半日居ないだけでこんなにも息苦しいものかと、居たたまれなくなり鞄の中身を移し終えた所で居心地の悪くなった教室を出た。


 この学校は校内と寮内とどちらにも食堂があって、食事はそこで摂る。
 時間が決まっているので食べこそねたりする場合もあるけど、購買と言う名の広いコンビニに似たものが入っていたりするのでそっちで済ませたり、部屋にも小さいながらキッチンが備えてあるので自炊をしてもいいし、外出できる時間内なら外食だって出来る仕組みだ。

 まだ校内の造りがわかってないこともあって、食堂にでも行ってみようかと時計を見たけど昼食を取るにも中途半端な時間で、そんなに空腹なわけでもなかったから中庭にでも出てみることにした。


 昨日、始業式の後に通りかかった程度でしかなかった中庭だけど、とても綺麗に整えられている。庭園といった感じで小さな噴水や花壇、その前にはベンチが並べられていた。

 そんな華やかな中庭から少し逸れたところに、そっと佇む大きな木があった。
 その木に惹かれ、向かい進んでいくと傍にベンチが一つ置かれているのをみつけ、そのベンチに腰をかけた。

「―――っ・・・」

 姿勢を変える度に痛みを訴える下半身。

 痛みには慣れているつもりだった。だけどこの箇所からくるこの痛みは今までに無いもので、どうやって痛みを逃せばいいのか、自分自身もどうして良いか分からない。

 ベンチの背もたれに身体を預けて力を抜いて浅く息を吐く。仰いだ空には、大きな木の枝が手を広げているようで、さわさわと揺れる葉の音と、抜けていく風が心地よかった。

「……、」

 投げ出した手の指先が、ベンチの木の触りとは違うものを感じて目をやった。

 そこには木で出来たベンチの隙間にうまく挟まり込んでいる赤い…手帳のようなもの。指先を使い、引っ張り出すとやはりそれは生徒手帳だった。

 この学校は手帳の色とネクタイに入っているラインの色で学年分けがされてあり、赤色が3年、緑が2年、青が1年生となっている。…ということは、これは3年生の手帳となる。
 名前を確認しようと手帳を開いた所で飛び込んできた名前に固まった。

 “織田 遥人”

 始業式で始めて目にした、凛とした声を発する彼。
 自分はその声と肩書きである生徒会長と言うことしか知らない。何も知らないのに・・・・。

 名前を見ただけでこんなにも胸が跳ね上がるとは思わなかった。


 その直後、校内には午後の予鈴のチャイムが鳴り響いた。
その音にビクリと身を震わせた。
せめて午後からは授業を受けたいし、後で届けようと胸のポケットに赤い手帳をしまった。






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