僕をよろしく | ナノ
僕をよろしく
05
眠れなかった。
改めて思い知らされた自分の位置。
何よりも、かけがえのないと言われる家族の中での僕の位置。
全ては自分が今まで積み重ねてきた結果で、落ち込むよりも諦めが強くて、明日の僕を、数年後の僕を、考えるだけで睡眠がどんどん離れていく。
静まり返った家の中、少し前まで聞こえていた物音もすっかりなくなってしまい、何気なく手にした携帯で時刻を確認した。
午前四時。
もう少しすれば空も明るんでくるのだろうか。
こんな時間まで眠れずに居る自分は、本当に独りのような気がした。
中学の頃の友達も、友人といえるような物でもなく、今の寮での、学校での僕にも、友人は居ない。
このまま寮に戻らなくたって気付いてもらえるかも分からない。
このまま、消えてしまったって、家族以外は悲しむこともないかもしれない。そんな人物が居たんだと言う、それだけ。
僕は、それだけの、
暗い部屋のせいか、眠れない脳のせいか、マイナスにしか進んでいかない思考を止める事も出来なかった。
朝になれば、と思っても朝といえる時間まであと数時間。僕はずっと沈んだ泥のような思考を抱え続けるしかない。
開いた携帯から、感覚のない指先で一つの番号を呼び出した。
きっと、こんな時間に電話をかけたところで迷惑にしかならない。
相手は出ないかもしれない。
いや、僕からだと分かったうえで出ないかもしれない。
それでも良い、暗闇に背中を押されるように、その行為を止める事は出来なかった。
数回続くコール音。
あのときのように、僕を救い出して欲しい。
此処から動かすだけの、道標を与えて欲しい。
そうは言っても、形としての何かがほしいわけでもない。今は声が聞ければきっと朝を迎える事ができる気がする、それだけだった。
『椿ちゃん?』
プツリと切れたコール音に次いで、はっきりとした声が僕を呼んだ。
寝ぼけたような声でもなく、とてもクリアな声が僕を引っ張り上げる。
その声を、僕の名を呼ぶ声を聞いた瞬間、体の奥から押し寄せる何かがあった。
「……詠仁、さっ」
非常識にも、こんな時刻に、と謝罪する冷静な言葉は出なかった。湧いたばかりの混ざり合った感情を抑える事が出来なくて、溢れる勢いのまま、闇から逃げ出すような速さで口にしていた。
「詠仁さん…、会いたいです、今、すぐ」
『――、出ておいで』
何故、どうした、という疑問の言葉よりも先に、詠仁さんは引きずりだしてくれる。
屋上でのあの時と、それはとても酷似していた。
簡単に身なりを整え、音を立てないように外へ出ると、詠仁さんからメールが届く。僕が実家に居る事を伝えた為、指定してきた待ち合わせ場所は僕の最寄の駅だった。
その文を確認して、すぐに駅に向かって走った。
歩いてなんて居られなかった。朝を迎えてしまえば、この僕の行動が全てなくなってしまう。そんな気がして仕方なかった。そうなる前に、どうしても詠仁さんに会いたかったのだ。
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