僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
06






 目を覚ますと、自分の部屋はしんと静まり返っていた。当たり前なのになぜか胸に穴が開いたような寂しさを感じて、じっと天井を見つめていた。
 外からは朝の光が差し込んでいて、まるで全てが夢だったかのような錯覚。でも…昨日確かに、森岡と…寝た。

嘘じゃない・・・、夢じゃ・・・ない。

 少し体を動かして、感じる違和感は腰に、そして未だ何かを含んでいるんじゃないかとさえ思ってしまう排泄する為のそこに。

 森岡はあの後あっさりと部屋に戻って行って、その後姿を見ながらそのまま僕はベッドに沈んだのだ。
 入寮が決まってからと言うもの、実家でもろくに睡眠が取れていなかったせいか、身体を動かした事もあって、昂った神経だったにもかかわらず、瞼を閉じると簡単に睡魔が襲った。

 ギシギシと音が鳴りそうな身体を何とか起こして、机に置いた時計に目を向けた。

「…えっ!?」

 時計の針が指していたのは朝の九時半。

 その時間に一瞬目を疑い、まだ始まったばかりの学園生活に遅刻なんてとんでもない事だと、慌ててたちあがろうとしたのに、その動きは走った痛みで妨げられて、僕はまたベッドに沈んだ。

「…つぅ」

 痛みに詰めた息を細く吐き出し、またゆっくりと息を吸い込む。
 森岡が起こしてくれても良かったのに。あんな事をしておいて、次の日にはなかった事になったのだろうか。折角の同室でクラスメイトでもあるのに。

 痛みが和らいだ所でそっと立ち上がり学校へ向かう準備をしようとした。が、昨日森岡の後処理を受けたには受けたけど、風呂には入っていない事を思い出してとりあえず一番にシャワーを浴びることが先だと考え直す。

 中途半端な時間に学校に向かったところで逆に目立つだけだろう。それならば昼休みに着くように寮を出る方がいいかもしれない。

 寮は学校に隣接してあるけど、校門までは迂回して徒歩15分程かかる。
 チャイムは聞こえて来るので、昼休みが始まるチャイムに合わせて部屋を出ればざわついた教室に着くことができるだろう。そうすれば目立つこともない。



 熱いシャワーを浴びて、部屋に戻ればCDを手に取りセットしてスイッチを入れると静かに流れ始めた音楽に集中した。

 小さいときから音楽は好きだった。

 初めて聞いた曲がなんだったかなんて覚えていないけど、童謡を聴いては、広がる絵本のような世界に夢中になった。母がたまの休みに弾いてくれたピアノは大好きだったし夢中になって聴いていた。

 音楽には世界があって、僕には見えないし現実にもない世界なのだけど、目を瞑るとそこには世界が広がっていく、そして近づける。そんな感覚に夢中になれる。

 複雑ないくつも重なった音を分けて聴くのも好きだった。一つ一つは違う音を奏でるのにそれぞれが一つになったときのまとまりに感動して。
 どんな音楽にも作った人の想いが込められていて、それを伝える手段なんだと。

 あこがれて一度だけ、ねだってピアノを習わせてもらったことがあった。

 だけど、続かなかった。

 頑張っていたつもりだった。自分から何かをしたいと言ったのは後にも先にもあの時だけ。それなのに理想と現実を突きつけられた。気持だけじゃなくって、僕には弾けるだけの器用な指先がなかったんだ。
 それを分かっていたのだろうか、両親だって直ぐに飽きるだろうと思っていたらしく、結局なかなか成長も見せず先にも進むことの出来ない僕の話しを先生から聞いた母親は、早々に辞めるように勧めてきた。

 天は二物を与えないって言うけど…ならば、僕は何を与えられているのだと言うのだろう。

「寂しさ……、か」

果たして紛れたのだろうか。
いや、確かに満たされた。
記憶の中で一番新しい人肌に、行為で熱いくらいに上がった体温に満たされた。

だるい体を感じて意識的に静かに息を吐いた。

 ベッドに腰をかけて流し聴きしている音楽に混じって学校のチャイムが聞こえてきた。音を止めると、痛む腰を抑えつつゆったりと立ち上がり自室を後にした。





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