僕をよろしく | ナノ



僕をよろしく
21






「えっ?」

「暑いから早い所図書館に向かおうか」

 僕の聞き間違いだったのだろうか、会長の語尾を問いかけた言葉は簡単に流されてしまった。なんでもなかったように先を行く会長の姿に僕の勘違いだったと確信して慌てて背中を追いかけた。

 入ってすぐのホールは吹き抜けで、大きな階段から2回へ上がった。2階にはパソコンを使う人用のスペースが並び、その奥には勉強や読書の出来るテーブルがいくつも並んでいる。そして窓際から曲がって行くその先には座り心地の良さそうな深めの椅子が並んでいた。
 すでに何名かがその椅子に座りくつろいでいた。会長が誘導してくれた椅子に腰掛けると、会長もすぐ隣へと腰を下ろした。

「何読んでるの?」

「あっ・・・」

 以前会長から貰った本を未だ読んでいると知ったらどう思うだろうか。きっと気分良くないだろう、僕が読みたいという意思を持って示したから譲ってもらったのに・・・。別に僕だって興味が無かったわけじゃない、だけどどうも本を開く気になれなかったり、あの部屋でなぜか本を読む気分ではなかったのだ。
 やっぱり僕にとっては会長との接点というのは貴重で、大切なものだからじゃないだろうか。会長の本を雑念を持たずに集中して読み進めたくてずっと置いたままだった。

「ご、めんなさい・・・まだ会長から頂いた本を読んでいるんです」

「なんで謝るの?」

「えっ・・・だってずいぶん前に貰っておいてまだ読みきれてないなんて・・・」

「本を読むスピードなんて人それぞれだろ?それに田嶋に譲ったんだから、もう田嶋の物じゃないかそれをどうしようが田嶋の自由だ」

 あぁやっぱり好きだなぁ、と胸が温かくなった。この人は他人を傷つけることはしないのだろう。一緒に居て一度も刺さる言葉を吐かれた事がなかった。
 何か俺も読むものを探してくると言って会長は席を立ち去っていく。僕は先ほどまで読んでいたページを探し出して読み始めた。会長が戻ってきても、お互い言葉なんて交しもしないで隣に座って黙々と読書をし続けた。僕が本を読み終えてもまた会長が勧める本を読んで過ごした。





「腹減った」

 ぼそりと呟いた会長の言葉にやっと僕は頭を上げた。ずいぶんと集中していたのか、時間がどれだけ経ったのか分かっていなかった。ゆっくりと頭を回して会長を見ると、かなり近いところに会長の顔があって慌てて身を引いた。

「・・・な、何時ですか?」

「二時。とっくに昼も過ぎてるよ。田嶋は腹減らない?」

「僕、集中したりすると欲が後回しになったりするんですよね・・・でも、会長がそんな事言うとお腹空いてる気がしてきました」

 身を引いたのにまた会長が近づいている気がして、気持ちまた身を引いた。会長は僕の言葉を聞いて、面白そうに目を輝かせた。なぜ、そんな瞳で。

「――田嶋はやっぱり良いよ。俺、田嶋の事好きだ」

「え?えぇっ?」

 それは告白なのかと一瞬考えたが、会長の口調からしてきっと興味を持った、という意味合いのことだろうと解釈した。僕の何が会長の琴線に触れたのだろうか。食事を忘れて本に没頭するとか、そういったところが?そんなの、僕じゃなくたってごまんと居るだろう。

「行こうか、あそこ。田嶋がまだ読んでいたいなら付き合うけど・・・」

会長の視線の先が窓の外、以前ここで会ったときに一緒に食事をした店を指しているのがすぐに分かった。

「・・・いいえ、行きましょう、お店」

 僕が承諾すると会長が嬉しそうに破顔した。こんな顔、きっと学校じゃ見られないだろう。僕しか知らないと思うとその笑顔に胸が高鳴った

 その後も終始笑顔の会長は、店に移動してもずっと僕に微笑みかけてくる。居心地が悪いわけではなく、くすぐったいようなその視線に思わずやめて欲しいと言ってしまいそうになるくらいだった。

 ランチにはギリギリ間に合わなかったけれど、ランチセットで決められているメニュー以外のものが食べられると思えばそれはそれで良かった。食事が進むと、会長はおもむろに独白のように喋り始めた。






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