僕をよろしく | ナノ
僕をよろしく
05
「も、森岡・・・!」
思わず逃げるように動く僕の腰を森岡の熱い手が押さえ込む。
「大丈夫・・・だからっ、力抜け・・・っ」
両手をついて、後ろから森岡が覆いかぶさってきていた。熱い昂りがこじ開けるように僕の中へ入ろうとしているのだけど、
「っく!む、無理…、痛っ、い、痛い!抜いてっ・・・んんっ!」
押し入る森岡に、意識が朦朧とする。たくさんの潤滑剤と、森岡が時間を掛けてほぐしてくれたおかげか、それなりに入っては来るが、想像以上の圧迫感に悲鳴を上げる。
その痛みに、僕の一度勃ち上がったものも萎えた。
息を吐いた森岡の手が、お尻を掴み、広げてまた奥へと入り込もうとする。もう入らないと何度も思うのにその度に少しずつ進んでくるそれに、言葉さえ紡ぐ事が出来なくなっていた。
「っ、くぅ…」
苦しくって、熱くって。押し出されるように涙が溢れていく。
溺れているように息を吐いて、吸い込んで…。
「はっ、…しばらくすれば…慣れるから」
そう息を吐いた森岡の手が僕の萎えたものに触れた。暖かい、手のひらに包まれて逃げる事も出来ず、思考はどんどんまとまらない。
感性は痛みから逃げるように快感だけを必死に拾い集め始めた。
「そう…力抜いて。」
溜息に近い吐息が耳に掛かる。森岡が緩やかに動き始めると、ゾワリと駆け上がった快感に腰が震えた。
「っ、…うぁぁ、」
圧迫されて苦しいだけの行為と、他人に触れられることで新たな快感を知った自身。全くの未知の世界だった。一度動き出せば、すぐに順応した身体は力を抜く事を覚えて、それと同時に森岡の動きも少しずつ早くなっていく。
奥を突かれるたびに、痛みの中から快感も同時に駆け上がり、僕が声を上げれば森岡が僕の中を犯していく。
「ふっ、あぁっ!」
前を触っていた森岡の手の動きが早くなり、溜まる熱を開放したいという本能なのか、ひくりひくりと腰が揺れた。そんな僕の動きを直で感じたのだろう森岡が背後でふっと笑った。
「椿…、気持良い…」
僕と森岡の上がった息と、ジェルをまとった肉のぶつかる音。そんな音を恥ずかしく思いながらももう止まる事さえも出来なかった。
森岡を求めて。
森岡に、求められたくて。
「椿…、っ」
「う、んっ・・・あぁっ!」
今までの動きとは比べ物にならないほどの強さで奥を突かれる。僕はされるがまま森岡の余裕のない動きをひたすら受け止めるだけだった。僕で、感じてくれているのだとそう思えば、必要とされているように錯覚して、どんどん知らない世界へと導かれるようだった。
「だ、め…!あ、っっ、っ!!!」
目の前が真っ白になった。
下半身が過剰に震えていた。射精感が駆け上がる、と認識した瞬間にはすでに自身が弾けるのが分かって、直後に全身に感じる熱。その熱が森岡のものなのか、僕自身のものなのかは定かではなかった。
お互いの荒い息が、静まり返った部屋に響いていた。ずるりと硬さをなくした森岡が抜け出る感覚に鳥肌が立った。朦朧とした意識の僕とは違い、森岡は淡々とゴムを外し、手馴れた仕草で後処理を始めていく。
「どうだった?気持ちよかっただろ?…これからも宜しく。ちゃんと椿も満足させてやるから」
未だ下がらない熱で、ぼんやりと森岡に視線を送った。同室で、身体の・・・関係なんて。
「嫌なのか?なんだかんだでまんざらでもなかっただろ?」
森岡の肌もしっとりと汗ばんでいて、色気があった。問いかけるように近づくそんな彼から目が離せなかった。
「良かっただろ?どうなの」
唇が重なる直前に、僕は小さく首を縦に振った。
痛みだけじゃなく、・・・・嬉しかった。
求めて、求められている錯覚が嬉しくて仕方なかった。
触れる人肌が、温もりが、気持ちよかった。
温かくて、暖かくて、人の体温は優しくて、触れられた所から侵食していく。
スポンジのように簡単に僕の体は吸い込んだ、受け入れた。
考えることも嫌になった、何にもない僕の中に、すんなりと滑り込んできた。
男性同士の性行為だとか知らないわけじゃない、けど現実味なんてなかったし、自分には無関係だと思ってた。
ただ、受け入れること自体考えることすら放棄しただけだ。
少しでも必要とされるなら、それだけで。
寂しさがまぎらうなら、それだけで。
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