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sunny place
11





東間が俺を押し倒してから一瞬のことだったかもしれないし、数分が過ぎてからだったのかも分からないけど、自分を押さえつけていた東間の力が抜けて、東間の体温が遠のいていく。

「――ごめん」

一言の謝罪。そして俺の腕をとって起き上がらせてくれたのに、東間の体温は遠いままだった。

「怖がらせたくない。けど、衝動を抑えることも出来ない。俺…おかしいよな。今、ちょっと駄目だわ」
「なに、が」

「恵生に対して、余裕がないって言うか、すっげぇ子供っぽくなってる。恵生の事わかってるのに――」

苛立った様子の東間が静かに背中を向けた。

「…シャワー、頭、冷やしてくる」


俺が桐生に会うことも、秋吉さんに会ったことも、東間が知らない自分の過去のことに関して興味をもってくれることも、何一つ不自然じゃない。
なのにこのギクシャクした感じはどうしてだろうか。

聞こえてくるシャワーの音に、東間の姿を思い浮かべる。
頭を抱えているだろうか、打ち付けられる水を浴びながら苦悩の表情を浮かべているんじゃないかと思うと、自分が何かをしてあげたくてもその術が判らず、悔しくなってくる。

自分の想いが伝わっていないのじゃないだろうか。
東間を、どこかで不安にさせているのだろうか。











「櫻田くん」

仕事帰り、日が暮れた駅前の雑踏のなか、聞こえた声に振り向いた。

「よかった。人違いかと思ったけど…」
「秋吉さん」

夕刻だというのに、くたびれた様子のないパリッとスーツを着こなした秋吉さんが傍に寄って来る。

「今帰り?」
「秋吉さんもですか?」
「いいや、外回りの営業だったんだ。これから社に戻って一仕事」
「ご苦労様です…」

まだ働くというのに疲れた様子が少しもないのは営業マンならではの仮面だろうか。

「んー?なんか元気ない?」
「そんなことないですよ、そんな風に見えます?」

掌で、自分の頬をさすってみる。そんなことした所で何も変わらないだろうけど…。

「これでも相手の表情を伺う事には慣れてるよ。この間会った時とは違う気がするけど…」

確かに、あれから東間と微妙な空気のまま数日を過ごしていた。考えないようにしておけばそのうち自然と元に戻ると思っているのだけど―…。

「仕事で疲れてる?それとも廉が居ないと俺とは会話しにくいかな」
「そんなことないですよ」
「そう?――あ、あのビルが俺の会社なんだ」

桐生を見つめているときも楽しそうにしていたが、今もそんな視線で見下ろしてくる。
足を進めながらも、こちらが気を使って相槌を打つまでもない会社や接待の話しをしてくれていた。
これからまだ仕事となると、なかなか桐生とも時間が合わないのではないだろうか。


「あ、あれ。秋吉さん、ここ入った所じゃないですか、会社」

思わず話しに夢中になって、秋吉さんの会社を通り過ぎるところだった。慌てて止めた足に、秋吉さんは微笑んでくれたが先ほどまでとは違う“営業の秋吉さん”だった。

「……、ねぇ櫻田くん。君の都合が良いならこれからどこかでお酒でも飲まない?」
「えっ?でもこれからまた仕…」
「何か悩んでたりするんじゃないの?俺でよかったら話し聞いてあげれる。相談だって受けてあげるよ」

それまで一定の距離を保っていた秋吉さんの身体はすぐ傍に。カバンを持っていない腕は、力強く俺の肩へと回された。

「秋吉さん、何言って――、」
「時間が無い?なら日を改めてもいい」

身をよじった所で離してくれそうも無い秋吉さんの腕は、なおも自分を引き寄せようとしてくる。

「秋吉さん」


「――恵生」

俺を呼ぶ声と共に、秋吉さんの腕は肩から外れた。
外れたのではなく、東間によって外されたのだった。





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