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sunny place
09





「待たせた?」

そう言いながら、俺を一瞥して桐生の隣へと腰を下ろしたスーツ姿のその男性。

「え?…ちょ、桐生」

もしかしなくとも、多分その男性はその人で。
けれど置かれた今の状態がいまいちつかめない。

「ごめん、言い忘れてたわ。今日櫻田と会うって言ったらどうしてもって言われて…。何度か断ったんだけどさ」

桐生の言葉を聞いて、ニッコリと向けられた笑顔は営業スマイルなのだろうか。けれど嘘臭くも無い。

「秋吉憲司です。仕事終わりなんだ。廉がお世話になったみたいだし、一度会ってみたかったんだよ」

さっと懐から名刺を取り出すと、目の前に差し出された。

「櫻田君だよね。廉から学生の頃の話は色々聞いてるよ。卒業式の時、廉の隣に居た子だろ?」

少し切ない春の匂いと、桐生の驚いた空気。
彼のその一言で確信へと変わる。

「櫻田恵生です、初めまして、っておかしいかな」
「…あぁ、なんだかイメージと違うかな」
「イメージ?」

「廉が襲った事あるって言うから…」

「桐生!」
「憲司!――あ、いや櫻田、これは」

慌てたのは俺と桐生だった。

「け、憲司には全部話したから、その、櫻田のことも全部…でもアレがあったから櫻田と親しくなったわけだし。…憲司もっ、本人を前にして言う事ないだろ!」

アタフタと説明をして、秋吉さんを見上げ訴える。
そんな桐生を見つめる秋吉さんは反省どころか面白そうに微笑みかけていた。二人のそんな視線のやり取りは自分が邪魔なんじゃないかと思えてくるほどで。

あのどこか冷たい委員長の姿は無い。
これが本来の桐生の姿なんだ。
何を分かった風でもなく、ただ“良かった”と胸が温かくなった。

本当に、よかった。
桐生の元に秋吉さんが戻ってきてくれて。彼を突き放すでもなく、ちゃんと二人が話し合って今があることが。

「廉が襲うくらいだから、もっと内気な感じかと思ってたんだよ」
「なんだよ、自分より弱いヤツしか襲わないみたいな言い方だな」
「お前が誰かを組み敷くなんて想像できないだけだ」

「く、組み敷かれ…!未遂ですっ」

今度はクスリと笑った秋吉さん。こっちは本当の笑いらしい。目じりに寄るしわが優しそうで印象的だった。

「未遂か。うん、未遂でよかったよ。廉の全てを受け入れてるが、廉が自ら求めた君にはどうも、ね」

どうも、とは何なのだろうか。
桐生の気持ちでさえ分かるわけが無いのに今日始めて会話を交わす人間の考えまで理解できるわけがない。

「あぁ、ほんと、わかる気がするな。廉が君に引き寄せられるの。どこか廉に似てるよ…その人を探るような視線とか、人の気持ちを知ろうとする視線。でも決して本人は見ようとしないんだ。その向こう。だからこっちからは何を考えてるか分からない」
「はぁ…」
「俺は廉の気持ちを動かした君に、今頃嫉妬してる。今頃っていうか、ずっと、かな」

彼の、桐生に対する独占欲。
隠す事もせず、ストレートにぶつけられる視線は今度は逆に俺を探っている。

「ほら、一緒だ。君が何を考えてるか、こっちが探ると怖くなるんだろ?そういった所も似てるよ。廉が君をずっと気にかけていた事が分かったような気がする」

「惚れんなよ」

間に入ってきたのは桐生の声だった。似てると言った秋吉さんの心が動いたのでは、と思ってのことか。
似ている事で代りにとなる。少しでも隙があればそれはくまなく入り込んでくるものだ。

「大丈夫だよ。俺よりも廉が心配だ。こうやって櫻田君に再会して…心動かされて無いか?」
「あるわけないだろ!俺は…ただ、櫻田が高校の時と変わったか、それが気になってたんだよ。つまらない毎日過ごしてるんじゃないかって…」

俺のことを気にかけてくれるくらい、桐生の心には余裕が出来たんだ――。

二人の間にある、余裕と信頼。二人が問題を超えた結果だろう。





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