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sunny place
07





東間が怖いとは一瞬も思わなかった。

どうすれば伝わるか、どうすれば分かってもらえるか、それだけだった。

好きだとか、愛してるとか、そんな言葉さえ小さく感じてしまうほど。

それ以上の言葉というものは存在しないのだろうか。

胸が一杯になって、言葉に言い表せないほど東間を想ってるんだって、どうやったら伝わるのだろう。
もどかしくって、悔しくて、好き過ぎて、とめどなく膨らみ続ける感情は押し出されるように呻きとなった。それを堪えようとすれば涙がこぼれそうで――。

伝えた言葉は震えてしまったけど。

東間の声が優しくて、触れる指先に心があって、言葉が足りなくてもちゃんと伝わったのだろう、と思えた。

俺だけのものだと、東間を独占できたのなら。
いつまで、どこまで、と思えば思うほど、離れることを考えてしまう。

今は若くて毎日を生きていればいいだろう、だけどこれが三十歳を過ぎれば?
周りからは結婚話が持ちかけられて、東間はどうする?そのときも変らず今のままの気持ちで居てくれるのだろうか。
俺も東間も変らないなんて言い切れない。

いっそのことこのまま今すぐおじいさんにでもなってしまえばいいのに。そうすれば短い先は不安になることも少ないだろう。シワが増え、たるんだ皮膚、ヨボヨボののおじいさんになった東間に魅力を感じる人は居ないと想定して…。いや、東間になら六十を回ったって誰か申し出てくるだろうか。
その頃なら、俺も笑って東間を離すことが出来るだろうか。

「恵生、何考えてんの」
「う、ううん」
「集中できない?意識どこに飛んでるんだよ」
「…老後、とか――っ」

東間が出て行こうとして、内臓を連れて行かれそうな感覚に腰を振るわせた。
少し角度を変えてまた先が押し付けられると、簡単に腰が砕けそうになる。

「その老後、隣に俺はちゃんと居るんだろ?」

「う、つっ、ん」

コクコクと首を振って答えると、小さく東間が笑った。
掴んだ腕はたくましく、女性がその体を目に留めないわけはないだろう。
早く筋力が衰え、爺さんになってしまえ。誰の目にも留められないように、東間の魅力を全て奪い去ってくれればいい。
東間が離れていく可能性がゼロだと言い切れるのはいつの事だろうか。
俺はいつまでもこうやって怖がって生きていくのだろうか。

「離さないから」

低い声で、東間が呟いて、俺は弾かれたように頭を上げた。
呻きにも似たその声は快感が混じった声だった。

「…東間」
「そんなにしがみつかなくても、落としたりしないって」

そうだった、狭いソファの上でいつの間にか俺は必死になって東間にしがみついていた。落下することに感情が重なって、必死な自分の姿。

絡めた腕を緩めるとふわりと体が浮き上がるようだった。

「あ、あぁ…東間」

力を抜くと襲ってくる快感にそのまま落ちていく。
背中に感じた東間の掌は力強くて、自分の体がしっかり支えられている。それに安堵すれば快感だけを追いかければいい。

「離さないよ、恵生」
「ずっ、っと…」
「いくら逃げても、捕まえてやるから」

逃げるのは俺?
逃げてるのは俺?
俺から離れるのは、東間じゃないのか?
俺が東間から離れる?

「も、わからなっ」

とめどなく腰の辺りから快感が駆け上がり、東間の上がった息が近くで聞こえる。
それからすぐに自分の心臓の音だけが全てを支配していった。





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