sunny place | ナノ



sunny place
06






嫌がるものを押さえつけて、なんてそんな趣味はこれっぽっちも無い。
ドロドロに甘やかすのが好きだ。


押し入って入った中は、いつもよりきつく感じる。それは拒否なのか、興奮なのか。

なぜ、と自問自答を繰り返したところで、出てくるのは「嫉妬」という答えでしかなかった。
もうどうにもならない過去のことなのに、どうにかならないかと願ってしまう。感情だけは現在にあるような気分だった。

確かなものを、と求めた先は恵生だった。
自分の元にあることを確かめたい。恵生が喜ぶことをだなんて余裕すら無く、自分が事実を確かめたかっただけだ。

今触れ合うことの出来る距離に居る事を確かめたい。

あの時とは「違う」と確かめたい。

「と…まっ」

何度も呼びかけられる名前。
もっと、もっと、俺を呼べばいい。今此処に居る事、一度離れた距離は、大きな気持ちを引き連れて再びすぐ傍にある。
身体を、感情を、受け止める事が出来る距離に居る幸せをもっと感じたい。そして感じて欲しい。

綺麗事を言って安心させる事も、優しく触れて気持ちよくさせることも何も出来ない。
ここにあるのは自分でも嫌悪してしまう位の醜い欲望だけ。ただの本能だ。俺で汚したいという、男としてじゃない動物としての。


知り尽くした体の隅々を休む暇なく攻め立てた。俺を呼ぶ声を上がる声を聞き続けていたい。俺によって俺の為に上がる声を。

「……もっと、恵生」

もっと俺を呼べ。

「――っ、う」

大きく頭を振った恵生が白濁を飛ばしても、まだ足りない。もっと狂わせたい。
恵生の思考回路を自分一色に染め上げたい。細胞の一つ一つまでも、俺で隙間無く埋め尽くしたい――。

「もう、や、…東間」

敏感な恵生を追い上げ続ければ、腰が振るえ続ける。それを掴み、また引き寄せると、声も出ない恵生に俺もまた、全てを持っていかれた。

ゆったりとした動きで体内の余韻を楽しんで、息を整える。汗だくになった恵生の肌を感じるように指先を沿わせた。





「恵生、…桐生と何があった?」

桐生のあの言い回しに引っかかるものがあった。
恵生が本当に俺の代わりだと桐生の傍に居たのかどうなのか。ただのクラスメイトだとしても、桐生は俺たちのことを知りすぎじゃないのか、そう、問うつもりで…。

「け、い?」

緊張を伝えたのは肌だったか、呼吸だったか。
定かではなくとも、恵生の体が訴えていた。

「桐生を、俺の代わりに」
「―――っ、違う!」

「桐生に、答えたのか…」

恵生がソファを掴み上体を起こしあげる。緩慢なその動きはきっと俺が身体に負担を与えたせいだ。

「違う、俺たちは、」

喉を鳴らす恵生。
泳ぐ視線は後ろめたさか、言葉を選んでいるのか。
それでもその表情からは俺に何かを伝えようとしてる事が見れて、その必死さに、荒れた気持ちが少しずつ落ち着いてくる。

「――どこかで自分を重ねていただけだった。代りになんてなれないだろ、桐生を東間にだなんて…」

恵生の頭が近づく。

視線は逸らされたまま、何を思い、何を考えているのか。あの頃に記憶が飛ばされたのか、薄く笑った恵生は今にも泣きそうな表情だ。


「東間は東間だ、東間だけなんだ」


ずっと理解していた事だ。

恵生には俺だけだと、頭でちゃんと分かっているけれど何度も確認していたい。何度も俺を求めて欲しい。

「俺には東間だけ。俺には東間が居た…けど、桐生には、」

恵生はぴったりと額を俺の肩につけて、話を続けた。
寄り添い、うなじをなで上げると、汗で濡れた恵生の髪が絡みついてくる。

「桐生は、助けてくれようとしたんだよ。ただ不器用なだけだった。その方法が強引で…」
「やられたのか」

良い言い回しなんて出来なかった。
自分の感情に押されて、気遣う事が後回しになってしまう。
何があったって大丈夫だとどこかで思っているから出来ることだって、今の俺達は分かっているのに、ただ俺が恵生に対して貪欲なんだ。

「――未遂だから」

恵生がそう言うのなら。

「桐生は桐生で、東間は東間だ。俺は、ずっと……お前しか要らないから」

恵生の唇が、声が震えていた。
そこに込められた気持ちの大きさは、きっと俺よりも大きいのだろう。
目先の事で貪欲になる俺とは違って、恵生はずっと奥底から俺を求めている。俺を飲み込むだけの感情をもってながら表にはなかなか出てこない。

包み込むようなキスを返しながら、今度こそドロドロに甘やかす為に、恵生を再度ソファに押し倒した。





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