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sunny place
05






性行為は苦手だったんだ。

東間もそのあたりを理解してくれていた。一般的な男性の性欲がどのくらいか、多分それは俺が感じているものよりも数倍大きいはずだろう。

けれど東間はそういったそぶりは見せることはなかった。
好かれているという安心感は常にあるから、抱き合うだけで幸せで、触れ合う肌が温かくて。
そこから先へと進むことを感じさせないから、俺は安心して東間に抱きしめられて、唇を受け止める。

それでも時には東間と抱き合って、快楽の頂点で眠りに付く事も度々ある。おまけに後処理がとても丁寧だ。俺に不快を感じさせないようにという配慮もされて、何よりそんな思考ごと綺麗に忘れさせてくれる。

自分も気付かないうちに薄れてきたのだと思う。性行為に対する嫌悪感が。

自分の元と成る物が何か、親と言う物が何か、どこから自分が生まれたのか、その全てが許せなかった。
だかどうだろう、年が離れて生まれた妹を目にするたびにこみ上げる愛おしさ、柔らかいその肌、それらが俺の心の奥底に溜まった澱を取り払ってくれる。
それまでの価値観、考え方が変ってしまうくらい、生命の神秘に感動した。
大げさだけど、やっと自分の存在を許せる、と思えた。
誰かに許してもらう訳ではなく、自分が自分を許せると思えたんだ。

だからもう大丈夫だと何度も伝えたのに、いつまで経っても東間は俺を気遣ってくれていた。




だからその瞬間、すぐに“おかしい”と気付いた。




「東間――っ」

何度呼びかけても返事がない。
その代わりに返されるのは、骨から崩されるような酷く甘い愛撫。

腕を捕られ、ソファーに押し付けられると、うな垂れるような動きで東間の頭が預けられた。
てっきり疲れたから横になろう程度のじゃれ合いだと思ったのに、東間の握力は戯れを感じさせなかった。
甘えているような仕草…けれど東間らしくない。

呼びかけはすぐに、東間の口に飲み込まれた。

合わさる唇は息が止まるほどの深いもの。啄ばむようなキスを飛び越えて、舌は深く深くもぐりこんでくる。
抵抗を見せても、簡単に掬い取られてしまう。

「……ん、は、ぁ」

離された瞬間、空気を取り込もうと肺が持ち上がる。
クラクラとする頭と熱で霞んだ視界で、東間の唇を捕らえた。

赤く解れた唇が、濡れている――。

「…ヤラシ、ぃ」

俺の言葉に細められた東間の目を見れば、口づけだけでは終わらないのだろう。けれど、こんな急に押し倒されるような事は今まで無かった。

「どうしたんだよ、急に、こんなっ」

身をよじっても、東間の腕が外れそうにない。それどころか俺の抵抗を押し切るように、再度体重が掛けられた。

柔らかい湿った感触が首を伝い――、駆け上がる快感に声が漏れた。

「俺っ、汗、がっ」

身に纏っている服は外の温度を含んだままだった。帰宅してすぐに入れたエアコンは部屋を冷やすにはもう少し掛かるようだし、何とかシャワーだけでも、と思った考えは東間の視線が拒否していた。

ゾクリと背中を駆け上がるものがあった。


怒らせた?何をした?


巡る思考が思い当たるのは一つしかない“桐生”だ。だが彼との何が東間をこうさせているのか。

嫉妬?まさか――、

桐生から受けた性行為、それは東間にはバレてないはずだ。何よりあれは未遂だと、そういい切って言いと俺は思っている。
あのときの桐生は自棄になっていたんだ、お互い友人にまでなれた今となっては、むしろ事故だと思っている。

「ん、…東間、待って」

シャツをたくし上げられ、露になった胸元に、東間の舌が這う。軟く、緩やかに。強く、しなやかに。

抵抗を諦めた俺の腕は東間の肩に、腕にしがみついていた。


「東間、っ、…とう」


東間、東間、何か…声を発してくれ――。





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