sunny place | ナノ
sunny place
04
それからまもなくして桐生の携帯が鳴り、呼び出されたとそのまま桐生とは席を立ち別れた。
俺はというと、桐生が去った後も胸に泥のようなものが溜まったままだった。
簡単に言えばそれは嫉妬に近いもので。たがそれが向けられた先は二年前の恵生と桐生にであって。
恵生があの頃どう過ごしていたかやっと聞けたのに、結果聞かなければ良かったと思う気持ちと、あの離れた一年間、恵生がちゃんと俺のことを考えていたのだと、桐生と恵生の間で俺の話が出たのだということだけで嬉しく思う気持ちが織り交ざる。
どう思おうと、なんと言われようと、過去は過去だ。
どうする事も出来ないのに、悔しさが沸くのはあの桐生の喋り方だろう。
桐生は俺に訴えていた。
恵生を一人にした俺に。
桐生に何が分かる。
あの時の俺の気持ち、千切れそうな胸の痛みを抱えた日々を。
会いたいと思っても、それだけじゃ駄目だった。恵生が決めた事で、それを無駄にしないために俺は従うしかなくて、できることは約束だけだった。思い続けることだけだった。
何度、連絡を入れようかと携帯を握り締めた事か。俺以上に苦痛だろう恵生を思っては、出来なかった。
悔しかった。
俺の知らない恵生の時間をあんなふうに桐生に口にされて。
何が俺の代わりで良い、だ。
俺を呼ぶ声を知ってる、だと?
そんなことを聞かされて、今の俺はこの苛立ちをどうすれば良い?過去の自分に向けての苛立ちを今更抱えて何の意味がある。
それくらい桐生は俺に言いたかったのだ。
恵生にとって桐生がそれくらいの位置に居たという事だ。
「東間?」
恵生の声で我に返った。
気付けば見慣れた家の扉の前に佇んでいた。
桐生と別れ、家に付くまで俺は意識を飛ばして、ずっと過去に囚われていたらしい。
「―――、」
「俺が、開けるから」
両手に荷物を持ったまま立ちすくんでいた俺は、恵生が出した家の鍵に気付いて一歩下がった。
鍵を回す恵生を見下ろした。
汗で濡れた襟足と、そこから覗く夏を思わせない白い肌。
俺の知らないところで、桐生と何があった?友人だと言うには色々知っている。
俺の知らない恵生を知っている桐生。
過去を何も話さない恵生。
「――っ」
舌打ちを少し乱暴に扉を閉めてごまかした。物に当たるなんて事、俺らしくない。
過去だ、過去だ、と何度も自分に言い聞かせて、気持ちを逃そうとするのに…、
「東間、桐生のこと悪く思わないでくれ…。あんな風に言ってたけどアイツにも色々あるんだ、腹割ったらいいヤツだし…、」
そうやってまた、恵生の口から紡がれる桐生との過去。
「――――、」
たった今、物には当たらないと思っていた矢先。持っていた荷物だけは丁寧に足元に置いたつもりだった。
が、気持ちが表れたのか、ワンテンポ早く動いた足に引っかかると、大きな音を立てて倒れた。
「と、東間、」
慌てるように、紙袋へ視線を送る恵生。
「大丈夫だろ、それくらいで壊れる物じゃない」
「東間っ、」
掴んだ恵生の腕が、俺の低い声に反応するようにビクついた。
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