sunny place | ナノ



sunny place
01







久しぶり。
元気にしてる?
卒業してから、何かあったら報告するって言ってたよな、そのくせ音沙汰無しでごめん。

お前の方はどうだ。
あいつには、会えたか?

一度、会いたいな。
またメールする。




そんなメールが届いたのは卒業してから半年ほどたった頃だった。
返事はしたが結局会うまでには至らなかった。

今、どうしているだろう
元気にしているだろうか。













寒いくらいの店内を出ると、纏わりついてくる夏の空気に思わず顔を歪めた。

「……暑すぎる」
「ほんっっと夏が苦手だな、恵生」
「これでも高校のときよりマシになっただろ」
「まぁな、筋肉も体力も付いたよな」

社会人になって、慣れなかった労働もいつの間にか板についてきた。スタミナだって付いたと思っている。相変わらず夏バテはするが風邪をひくのは減った。

「まぁ以前がありえないくらいひ弱だったって事だよな」

東間は眩しそうに目を細めて俺を見下ろした。
二の腕をつかまれ、日々の労働で鍛えられた筋肉を確かめるように動いていく。

「それでもまぁ、まだまだだけど」
「うるせぇな、俺にムキムキのマッチョになれって言うのかよ」

腕から離れた東間は、へんな物想像させるな。と苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、俺の持ってた荷物を取り上げた。

「そのくらいの荷物持つし」
「いや、マッチョ回避」

その程度の荷物でマッチョになれるものなら、世の中皆マッチョだ。

そんな東間の取り上げた紙袋の中身はというと、調理器具。
フライパンを買い替え、新にフードプロセッサーなんて物も購入した。その全てが東間の要望なのだった。
今の東間に趣味は?と尋ねたなら料理、と即答するだろう。そして俺も間違いなく東間に胃袋を掴まれていた。

そのほかにも久しぶりに洋服なども購入して、東間はその全ての荷物を手に隣を歩いていた。

「なんか…、俺が何一つ荷物持ってないのってイヤなんだけど」
「いえいえ、今回のスポンサー様に荷物を持たせるなんて事出来ません」

社会人として働いている自分の方が、収入があるのは当たり前で、東間はその事に関してに引け目を感じているわけではないだろうけれど。

口ではいくら言っても言い足りない感謝の気持ちを、俺は俺で東間の為になる事で返したかった。お金が全てでは無い、けれど力になれたのならそれでいい。東間が満足してくれるのならそれで良かった。
それくらいしか俺には出来ないし。

「どっか寄って帰る?」
「冷たいものでも飲んで、少し涼んで帰ろうか」

こめかみから伝った俺の汗を見て、東間が俺の髪をかきあげた。
温い風がそっと吹き込むだけで「涼しい」と感じるのは一瞬だけだった。地球温暖化とうるさい今では夏の日差しは容赦が無い。
照れくさくなってその手を返すと、触れた東間の熱が伝わってくる。

「東間もかなり暑そう」
「夏に強くたって、誰も暑さは一緒だからな。早く冷たいもの口に入れよう…」

ちょうど信号が変ったところで、家とは反対の方へと道路を渡る。暑いといえども街には多くの人が溢れていた。

その間を縫って信号を渡り終えたところで、軽く肩を叩かれて振り向いた。



「やっぱり。櫻田だった」

「――!」


明るめに染められた髪の毛、その姿に疑問を持ったのは一瞬だけだった。かすかに感じた面影に気付けば、記憶は一気に流れ出した。

服装もネクタイをキッチリと絞め、第一ボタンまでしっかり留めていた委員長だったとは思えないほど、垢抜けた桐生がそこに立っていた。





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