sunny place | ナノ
sunny place
02
じりじりと皮膚を焼く音が聞こえそうな日差しに、思わず身を乗り出して海水を手に掬うと自分の身体に掛けた。
「綺麗だ」
手を伸ばしたその海はキラキラと光を反射させて、透き通ったブルー。波打ち際ではなかなか見られない綺麗な海水に目を見張った。
「この海水浴場も昔は綺麗だと有名だったのに、最近では汚れまくってるよな。オイルの油膜とか、ゴミ、とかな」
盆を過ぎれば足をつけるのも戸惑ってしまうほど汚れるらしい海岸。比較的早い段階で秋吉が休みを取ってくれたのも、車で行ける範囲で選んでくれたこのビーチも、綺麗な海で俺と過ごそうと思ってくれての事。
秋吉の動かすオールに静かに跳ねる海水。潮の香りと少しずつ近づいてくる島。
「もう少しだな。あの島の海岸は綺麗だろう」
数艘のボートが並んで、小さなビーチには数名の人影が見えた。
「それなりに人居るんだ」
「二人っきりじゃなくて残念か?」
「ば、ばかじゃねーの!」
思わず傍の海水を掬って秋吉に投げ掛けるも、全く気にもしない秋吉。キラキラと、水滴がボートの上に降り注ぐ。
降り立った砂浜は真っ白で、綺麗な海水が打ち寄せていた。小さな海岸を囲むかのように岩が切り立っている。くるりと見渡して、砂浜を歩いて行こうとした。
「廉、こっち」
呼ばれて振り向くのと手を引かれるのは同時だった。
「どこ行くの」
無言で連れて行かれたのは何とか登れそうな岩肌だった。
「砂浜で良いじゃん」
「いいから、ほら手」
前を行く秋吉に手を差し伸べられて、そのまま自分の手を乗せた。ぐいぐいと引き上げられて行くうちに砂浜が視界から消えた。
平らになっている場所に腰を下ろす秋吉に習って俺も直ぐ隣に座った。視界には邪魔な物は一つも無くて、青い海と、青い空。
言葉を出すまでもなく、絶景だった。
「ひと目に付かず、二人きりで居たいのは俺のほうかもな」
乙女みたいに、高鳴る胸は惚れた弱みか…。
「指輪―…」
そう言って秋吉が触れた物は、俺が秋吉と離れてしまったあの時のまま、首から下げられた指輪。音を立てて、秋吉の指に絡まる。
「あんたは…嵌めてんだね」
仕事以外では必ず嵌めてくれている事を、俺はちゃんと知っている。それでも今更嵌める事が出来ないで居る俺は…、ただ恥ずかしくて…っていう理由、秋吉は信じてくれるだろうか。
また、眩しそうに俺を見る秋吉と目が合って。もしかしたらそんな理由もとっくにこの人には判っているのかもしれない、なんて思った。
俺が指輪を嵌めない理由を問いただす事もしない姿は、やっぱり大人の余裕を感じさせる。
「気持いいな。寝転がりたいけどさすがにこの岩肌だと火傷しそうだ」
座った場所もじりじりと熱を感じて、汗が噴出す。
「飛び込みたいな、此処から」
真っ青な海を見下ろしていると、こんな暑さが馬鹿らしくなる。目の前には気持ち良さそうな、ブルー。
飛び込むにもそんなに恐怖と感じる高さではなかった。
「行くか?」
そんな秋吉の言葉にニヤリと笑顔を返す。
「わぁ!だっせぇ、くっきりいってる」
飛び込もうと脱いだビーチサンダル。その鼻緒の痕がくっきりと日に焼けて足の甲に浮かび上がっていた。
「事あるごとに脱いでおかないから」
そう言った秋吉の足の甲は綺麗な小麦色。そんな足を見ているうちに秋吉が綺麗に舞った。
「わ、先行くのかよ!」
弧を描いて飛び込む姿が目に焼きつく。この人は何をさせても様になるのか―…。
追いかけるように、俺もまたそのブルーに身を投げた。
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