sunny place | ナノ
sunny place
01
扉を開ければ、そこは暗闇で
家に誰も居ない事をあらわしていた。
久々に目にしたその情景に一瞬玄関で立ちすくむも、しばらくして近寄る小さな足音にホッと息を吐いた。
「シロ、ただいま」
ミャー、とひと鳴きしてまた自分の居場所でもあるクッションに乗り丸まった。
パチリと電気をつけて上着を脱ぐ。
「東間・・・帰ってないの?」
ピクリと耳を震わせたものの、動かず丸まったままのシロにまた小さくため息を吐いた。
時刻は22時。
急な残業で、こんな時間になってしまった。
ほぼ一人暮らしだった二年間と裕福とは言えなかった家庭からか残業と言われれば断る事もせず、働けるのなら、とむしろ自分から率先して作業をした。
働いているのは小さな工場。
鉄でできた部品を加工する工場で、その部品は車から機械の部品とさまざま。まだ小さい会社だから注文が入ればできることは承っているようだった。肉体労働、というよりも頭を使った。
ただ、鉄を削る。それも機械が。
でもその設定を機械に入力するのに細かい計算がいるのだ。
それでも多くの部品を運ぶのに体力は要ったのだけど
肉体労働で健康的な体を、男らしい体を手に入れられるんじゃ・・・なんて考えは無駄だった。
帰ってきても疲れた頭が睡眠を欲しがってばかりで。
シャワーを浴びて、冷蔵庫から水を取り出す。
それを口に含みながら携帯を開いた。
連絡が、ない。
今までこんなこと一度だって無くって・・・。
東間は俺が帰宅する頃には大体家に居る。
バイトの日も遅くても9時には帰っている。
だから、今日だって残業して帰れば、東間が居る事が“当たり前”で・・・
だから思いのほか、暗い空間にドキリとさせられた。
外の寒さから帰宅して、扉を開ければ暖かい風が流れてくるのが“当たり前”になっていた
メール画面を呼び出し、東間にメールを送る。
ソファに横になり、携帯を持った手を床に下ろす。
久々に一人、だ。
それが普通だったのに、東間と一緒に住み始めてからは普通じゃなくなった。誰かが居ると言う事が当たり前で、普通だった。
「どこ、行ってんの・・・」
鳴らない携帯に不安になって、胸がざわついているのは判っているのに、俺はどうする事もできない。
どうして良いかわからない。
東間だって子供じゃない。
むしろ、俺より大人だと思う。
俺が心配しすぎるのも、おかしな話しで・・・
だんだんと、瞼が下りてくるのを必死で堪えて。
座りなおそう、と思うも疲れた体は思うように動こうとしてくれなかった・・・
瞼が完全に閉じられると同時に
コトリ、と携帯が手から離れ床に落ちた
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