sunny place | ナノ
sunny place
21
視界が歪んだのと、煙草の香りに包まれたのが同時だった。
言うつもりなんて、無かった。
このまま抱えて、俺は生きていくつもりだった。
でも、でも・・・・こんなに近くに居るのに。
あがく事もせず、欲しい物を手放すくらいなら、ちゃんと思いをぶつけてしまう方が楽だと思ったから。
手を伸ばして、少しでも触れることができるのなら、それだけでも俺は幸せだと思えるから。
ちゃんと気持を伝えたいって、思った。
何も伝えないままの臆病な自分は去った男を恨む資格すらないと思っていたから。
「――――っ、な、んでっ・・・」
なんで、抱きしめるの。
突き放して、また去って行けば良いのに。
「やさしく・・・・するな、よっ・・・」
傷を塞ぐのに、どれだけの労力と時間と、掛かると思っているんだ。
一度与えられた温もりがどれほどの大きな物か・・・・。
「廉っ・・・・俺は、恋愛よりも仕事を選んだ人間だ。・・・・あの時、待っていて欲しいとも、愛し続けるから・・・とも、何も・・・何も、言えずにお前の前から去った。そんな男を、・・・お前は・・・」
「―――っ、あの時、言葉を奪ったのは、俺でっ・・・」
「違う」
秋吉の、指が俺の頬を撫でた。
濡れた指先が・・・そのまま唇を撫でていく。
「ちゃ、んとっ・・・ちゃんと、これからは考えるから、自分の事。あんたは心配、してくれてたよね?いつだって。」
「廉・・・・」
「もう・・・・向こうで新しい人、見つけた?」
「廉、無理に笑顔作るんじゃない。」
「今、はもう・・・俺の事っ・・・っ」
秋吉の、瞳が細められた。
「・・・今でも。・・・・好きだ。」
「―――っ、秋、よし・・・っ!」
「憲司、って呼んでくれないのか?」
喉が締め付けられるように痛む。
痛むのは、胸も。
俺は、もう元には戻れないから。
自分のしてきた事、後悔したって・・・遅いから。
「もう―――・・・。ねぇ、キス、ちょうだい?」
「名前呼んだら、いくらでもくれてやる。」
ふふふ、と小さく笑って、涙を拭った。
「憲司、さん・・・最後にキス、ちょうだい?」
懐かしい温もりと、願いが叶った幸せ。
大人の香りにに微かな煙草の香りが鼻を掠めて。
「最後って、なんだ?」
一度離れて、また降ってきた唇。
時間を掛けて、味わうように舐め尽される。
離れた、秋吉の唇が濡れていて、いやらしく光っていた。
あぁ、キスだけじゃなく、体までも求めてしまいそう。
「・・・・・ありがとう」
「廉?最後って?」
「うん。最後のキス。・・・もう、さよなら・・・だよ」
また、涙が溢れた。
こんなにも、好きなのに。
ちゃんと思いもぶつけたのに。
やっぱり手に入れることができないのは全て自分の責任・・・。
折角あんたにも、想ってもらっていたって言うのに・・・。
ごめんなさい。
ごめんなさい・・・。
「ご、めん・・・・っ」
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