sunny place | ナノ



sunny place
19






卒業式、日和って・・・いうのかな?


昔からの卒業式の雰囲気。


暖かな日差しの中、体育館で卒業証書を受け取る。


ふと櫻田を見てみると、パイプ椅子に座り、下を向いて・・・寝ているようだった。

櫻田らしい。

彼も、今日は特別な日。

もっとそわそわしているのかと思って、からかうつもりでいたのに全くそんな素振りなんて無くて、思わず朝一番櫻田の顔見て笑ってしまった。
いつもとなんら変わらない、何を考えてるかわからないポーカーフェイス。


卒業式は滞りなく終わり、外に向かって歩く櫻田に声を掛けた。


「櫻田」

「・・・よう、終わったな」


「卒業、オメデトウ」

「おめでとう」


早く帰りたいであろう櫻田をわざと引き止めてやろうと思っていたのに

「桐生、一緒に帰ろう」

「え」

そんな誘いをされてしまった。

櫻田は今日東間との再会を果たすのに・・・
待ち望んでいただろうに、そんなことを言い出して。


「いいじゃん。この制服で歩くの最後だし」

「急いで帰れよ」

「・・・急いで帰ったところで向こうだって忙しいよ」

「わかんねーぞ?もうすでに待ってたりして」


引きとめようと思ったのに、逆に急かすみたいなセリフが出た。

櫻田はまったく急ぐ素振りもなく呆気に取られた俺を面白そうに見ていた。



門に向かい歩いていくと、たくさんの円陣ができていて、後輩に集られるヤツも居た。
男子校だけど、もちろんボタンを奪うやつも居た。
俺も前日までに何度も言われたけれど、全て断った。

ここでの俺の生活は・・・俺じゃなかったから。

そんな俺に尊敬のまなざしとか、好意をもった気持が申し訳なくて。


学校の思い出なんて良いものじゃなかったけれど、こうやって卒業を迎えると寂しいもので、門までの距離をゆっくりと味わうように歩いた。



一瞬見えた、スーツ姿に胸が跳ねて、自分でも笑えた。

まだまだ、俺は未練があって、こうやってスーツ姿に誰彼構わず胸を弾ませることがあるんだと・・・

きっと、誰かの知り合いかなんかだろうと、そう思ったのに・・・




「桐生」




櫻田の声がどこか遠くで聞こえて。


周りの生徒の姿も膜を張った様にしか映らないのに、



あいつだけはクリアに俺の視界に飛び込んできた。





「・・・・廉」




「・・・廉?」




「・・・・。・・・・ほ、ん物?」




眼鏡の奥の瞳

俺が欲しくて欲しくて、たまらなかったもの。

見てほしくて、見つめて欲しくて。


「卒業、おめでとう」


傍に立っているのに、全てが動くと消えてしまいそうで、ただ立ち尽くすばかりだった。


一向に動かない俺に痺れを切らしたのか、はたまた周りの視線があったのか、秋吉は俺の腕を取って歩き出そうとした。

その手の大きさに、懐かしい指先に過剰に反応して振り払った。

「ごめん。・・・車乗る?」


このまま逃げる事を考えたけど、逃げてばかりでは駄目だと知ったところだったし、ちゃんと話しをしたい、話を聞きたいと思った。

首を縦に振れば、安心したように笑う秋吉。
その姿を見て、カバンを持つ手が震えた。



怖い・・・けど、ちゃんと踏み出さなければ


そうしないと、本当に俺は一生この気持を抱えて生きていかなくちゃいけないような気がするから。





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