sunny place | ナノ
sunny place
16
捨てられる
捨てられることが、怖い?
そんな感情、湧く暇なんて与えてももらえなかった。
「・・・もし、櫻田が捨てられたら、俺が拠り所になってやる。」
捨てられて、自棄になって、俺みたいにならないように。
行き場を失った感情を、俺が受け止めてやる。
「委員長?」
頬に、涙が伝っている事を気付くのに時間が掛かった。
そうだ、俺はこうやって誰かに・・・言いたくて。
誰かに・・・聞いて欲しくて・・・。
「俺も・・・、同じだった。結局アイツは俺の所になんて帰ってこなかった・・・・・男同士の恋愛は、何も生まないって。普通の人生が一番なんだと。」
きっと、あれからお見合いでもして・・・いや、あいつなら簡単に良い人が捕まえられるんだろう。
そうやって今頃は家庭を築いているかもしれない。
俺がいたという事実は過去のもの、ちょっとした事故だとでも思ってるんだろうな。
痛い目見る前に、終わらせて。
普通に、この先も生きていくんだ。
「誰に抱かれても、誰を抱いても・・・埋まらない。櫻田がもしも俺みたいに・・・。そうなってしまう事がどれほどの事か知ってるから―――・・・」
汚れたって、自分が惨めなだけで。
「ありがとう」
「いや・・・正直なところ久々に湧いた感情だったんだ。櫻田なら、何とか忘れる事ができるんじゃないかって。俺を何とかしてくれるんじゃないかって。
結局、自分が助かりたかったんだ。いつまで経っても動けない自分をどうにかしたくて、もどかしかった。」
空を見上げる櫻田の姿が、俺自身と重なって。
助けてくれる人なんていないのなら、自分が自分を助け出さないと。
そうやって、どんどん櫻田を自分に置き換えて見ていた。
「忘れ、なくていいんじゃねーの?」
「・・・」
「忘れよう・・・って思ってるなら指輪なんて持ち歩かない。・・・想ってるんだろ?まだ。その気持、認めてあげなきゃ、可哀想だ。」
可哀想?
俺の、気持が・・・可哀想?
認めて、良いの?
秋吉のこと、憎む事もできず
ただ、どうやったら消えるんだろうかと、忘れる事ができるんだろうかと、そればかり考えていた。
秋吉の事が、忘れられないって
初めて知った男だからとか、そういうのじゃなくって
心から
求めて
彼に愛されたいと
彼が好きだと
そう、認めて――――
良いんだ・・・・
「櫻田と話しできてよかったかも。何か変えれそう、変われそうだ。」
息を吐くと、一緒に今までの気持がほんの少し、軽くなった気がした。
「東間が、俺のこともう要らないって、言ったら・・・・頼らせてもらうよ。」
「是非。俺も、長く掛かってでも消化していこうと思う・・・」
自分を認めて、そこからまたこの先どうするかは考えれば良い。
秋吉のこと何も知らない俺は、会いに行く事も探す事もできないけれど。
失恋、を自覚するにはあまりにもあっけなく過ぎ去った秋吉との日々。
思い返して、泣いてみるのも良いんじゃないか。
たくさん泣いて失恋の痛みに浸って、そして秋吉に未練を持ったままの俺で・・・
今は―――・・・それで良いんだ。
どうなるかなんて判らないのに、ひょっとしたら明日、秋吉以上の人に会えるかもしれない。
ひょっとしたら、素敵な彼女が俺にもできるかもしれない。
流れに、感情に身を任せて、忘れられないのなら思い続ければ良い、忘れられたのならそっと痛みをしまいこめば良い。
prev|back|next
[≪
novel]