sunny place | ナノ



sunny place
09






翌日の櫻田は酷い顔色だった。

効果覿面だ

後ろから見ても学校へ向かう足取りが重い。
俺が声を掛ければ全身に神経を張り巡らせていたのだろうか、大きく肩を震わせ、振り向いた。

「おはよう。どうした?なんか暗い・・・」

「はよ、なんでもない。」


全て、俺の仕込んだ事だけど・・・
その櫻田の顔は、十分に睡眠が取れていないのは一目瞭然で。

上手くいった。後は俺を頼ってくれれば事が進む。

甘い、手つきで櫻田の目元にできたクマに触れる。
過剰な触れ合いは、人肌恋しい人間なら甘い毒だと俺自身がよくわかっている。
全てを逆手にとって、櫻田に 


仕掛ける


案の定、手を振り払ったものの、櫻田の視線が絡みついてくるのを背中で感じて、ほくそ笑んだ。

校門をくぐり、下駄箱の前でクラリと揺れた櫻田に慌てて駆け寄る

「櫻田!どうした!?大丈夫か」

下駄箱でうずくまった櫻田を引き上げると、伝わる体温がほのかに熱い。

「大丈夫、ちょっと・・・保健室行ってくる。」

「連れて行くよ」

「・・・っ、ごめっ・・・大丈夫だから。1人で行けるから」

そう、俺の手を振り払う櫻田。
櫻田もきっとギリギリのところだろうか。精神的に。頼れる東間は今居ないのだ。
なのに俺にはまだ縋ろうともせず・・・

まぁ、これから、か。


午前中の授業に一度も姿を現さなかった櫻田。
まだ保健室だろうか。

昼飯もそこそこに保健室へ足を運ぶ。

一箇所だけ締め切られたベッド。
そっと覗けば静かに横たわっている櫻田の姿を確認した。やはり熱があったのだろうか、しっとりと汗をかいて額に張り付いた前髪を梳いてやる。

思ったよりも柔らかい髪質。

「ん・・・」

身じろぐ櫻田
時折眉間にしわを寄せ、瞼が震える

目を覚ますのか・・・それとも・・・泣くのか

「と・・・ま・・・?」

すっと伸ばされた手を、握った。

もちろん、櫻田が夢の中で東間を探し、東間を求め差し出した手だろうと言う事は安易に想像がついたのだけど。残念ながら目の前に居るのは俺だ。

俺が一番近いんだと、判らせるように強く握る。

はっと開かれた瞳
焦点が合った時の櫻田の表情は東間じゃないという落胆に近い・・・困惑。

「い、委員長・・・」

「どう?具合・・・うなされてたけど。心労?熱も出てたみたいだね。」


櫻田は、素直だ。
体全体から東間を求めているのは嫌でもわかる。東間って奴も、よくこんな櫻田を手放したもんだ・・・とため息が漏れた。

本当に、櫻田を手放すつもりなのか?

そうやって櫻田から離れていくのか?


「も、早退、する・・・」

「1人で大丈夫?」

「・・・ん」

櫻田のカバンを教室に取りに行き、担任に櫻田の早退を告げる。全ては“委員長として”の役割とばかりに。



俺は、いつまでこんな優等生を続けていけば良いのだろうか。

一生抜け出す事はできないのか。

校門へ向かう櫻田の後ろ姿を保健室から見つめ、ため息を吐く。





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