sunny place | ナノ



sunny place
01





机に向かって、ひたすらノートを取る。

しーんと静まり返った部屋で、急にその静けさが気持悪く感じて、隣にあるコンポのスイッチを入れた。
小さい音量で流れる音楽を確認して、またノートに視線を落とした。


時刻は午前2時


夕食を取り、その足で自室へ向かい、勉強して。3時間ほど経ってからお風呂に入り、上がればまた自室へこもって勉強。

馬鹿みたいに、自棄になって勉強ばかり続けている。

眠くなるのを待つように、ひたすら教科書に視線を落とす。

頭には半分も入っていないのに。

何も考えず、ひたすら教科書を開き、問題集を解く事を繰り返す。何度も繰り返していくうちにイヤでも頭に入ってきた。



そうやって、時間を過ごすしか方法が無かった



家での俺の居場所はこの部屋だけで。
この部屋の中でも机に向かっていれば、安心できるんだと、変な勘違いをして。









一年の三学期にして急に成績の上げた俺を教師達は驚いていた。
そして、この学校の卒業生でもある、出来の良い兄を持つ俺に「やっぱりお前も兄と同じ血がながれているんだな」と口々に言う。

そんな言葉を失笑でしか返せなかった。

誰も、俺のこと見てなかったくせに、成績を上げればこれだ。

父親も、俺に文句を言わなくなった。褒められもしなければ、けなされもしない。結局俺はその程度で。



二年に上がってすぐ、成績のせいか学級委員長を任された。時間を少しでもつぶせるのなら、いらぬことを考えずに済むのなら・・・・


どうでも良かった



そうやって、自分の思考を頭の隅に追いやっているのに


全然消えてくれない

忘れられない


初めて、与えられたと思った温もり

掴んだと思った幸せ


あっさりと去っていったそれを追い求める事ばかりして。気がつけば足を運んでいることがあった。


秋吉の・・・マンションの前に。


バイトからの帰りに。
勉強に疲れて、そして眠れない時に。


道路を挟んで、ガードレールにもたれてマンションを仰ぐ。


秋吉の部屋だった場所の電気は点く事がない。
いつ、ここを出て行ったのだろうか。
簡単に別れたあの時を思い返せば、俺に未練なんて・・・無かったって事は・・・わかってるんだけど。

俺はこんなにも未練たらたらで・・・

未だに首から下げられたそれを服の上から押さえることは、秋吉が居なくなってからますます酷くなった。

気がつけば、手が胸元に上がっているのに気付いて、慌てて下ろす日々。

だからといって外せば、気持が不安定で・・・



マンションと足元を繰り返し交互に見つめ

このときばかりは抑える事をしないで、自分の思考を泳がせる・・・。




近づき、傍で立ち止まった足音に思わず顔を上げた。


「コンバンハ・・・君、ここによく立ってるよね?」

「・・・・何、ですか・・・」

スーツを着ているその男性は、すこしくたびれた感じで、でも目の奥は何かを秘めた物があって・・・
秋吉とは似ても似つかないのに、スーツ姿になぜか胸が痛んだ。


「いや、君・・・いくらかな?」

「いくら?」

「そう。客待ち、だろ?俺でどう?・・・3万、じゃ安いかな?」

あぁ、ウリと間違えられてる?

「俺・・・」

「ホテル、行こうか」


そうやって、俺の手を引く腕を振り払おうと思えば簡単に振り払えたのに


そうしなかったのは なぜなんだろう。





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